TNFD提言に基づく開示
生物多様性に関する考え方
“マルハニチログループは、世界の海洋から漁獲・養殖される水産物を中心とした自然の恵みを生業として140余年にわたり事業を継続してきました。マルハニチログループの事業は他にも農・畜産資源、水や土壌、昆虫等による花粉媒介などのさまざまな自然の恵み、つまり生態系サービスに大きく依存していますが、経済活動に伴う森林伐採や工業化、環境汚染などにより生物多様性の劣化が近年急速に進んでおり、これらを重要な社会課題であると認識しています。 生物多様性COP15にて採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のミッションである、自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め、反転させるための行動「ネイチャーポジティブ」に貢献することを目指し、マルハニチログループは、原材料調達から製品廃棄に至るバリューチェーン全体での事業活動において、生物多様性への依存と影響ならびにリスクと機会を把握し、その保全・再生に向けた取組みを推進します。”
ガバナンス
マルハニチログループのサステナビリティ推進体制
マルハニチログループでは、サステナビリティ戦略を推進するため、2018年に経営会議の直下にサステナビリティ推進委員会を設置しました。取締役常務執行役員が委員長を務め、マルハニチロ(株)取締役を兼務する役付執行役員、関連部署担当役員、関連部署長を委員、社外取締役、監査役をオブザーバーとして構成されており、グループサステナビリティ戦略全般の企画立案や目標設定、およびグループ各社の活動評価をしています。「サステナビリティ推進委員会」は四半期ごとに年4回開催されており、マテリアリティ“生物多様性と生態系の保全”や”生物多様性と生態系の保全”を含む各マテリアリティの進捗を各責任者およびプロジェクトリーダーが報告し、積極的な討議を行っています。サステナビリティ推進委員会で討議された内容は、少なくとも年4回、経営会議を通じて取締役会へ報告されます。
生物多様性に関連するイニシアチブへの参画
マルハニチログループは、水産物をコアにグローバルなサプライチェーンを通じてビジネスを展開しています。特にその調達活動と水産資源は密接に関係しており、幅広いバリューチェーン上には単一企業、民間セクターのみでは解決できないサステナビリティ課題が多く存在していることが懸念されます。包括的な取組み推進のため、同業他社や行政、科学者、NPO/NGOとの協働が不可欠であると考えており、マルハニチログループは、国内外のさまざまなイニシアチブへ自主的に参画し、経営会議およびサステナビリティ推進委員会で進捗を報告しています。
参画している生物多様性に関連するイニシアチブ
- 国連グローバル・コンパクト
- 持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)
- クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)
- 日本経団連生物多様性宣言
- 生物多様性のための 30by30 アライアンス
- ジャパンブルーエコノミー推進研究会
Seafood Business for Ocean Stewardship (SeaBOS)に参画への参画
SeaBOS (Seafood Business for Ocean Stewardship)は、世界水産大手企業8社と、海洋・漁業・持続可能性を研究する科学者が、持続可能な水産物の生産と健全な海洋環境を確保するために、科学的根拠にもとづく戦略と活動を協力しながら主導することを目的に2016年に設立されたグローバルなイニシアチブです。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)、特に「目標14 海の豊かさを守ろう」に積極的に貢献するとしています。
現在は下記5つのタスクフォースに分け、解決に向けた議論を行っています。
マルハニチロはSeaBOSの立ち上げから参加し、2018年9月、組織設立と同時に当社社長(当時)の伊藤滋が初代会長に指名され、2020年10月まで会長として従事しました。現在はタスクフォースVの共同リーダー、タスクフォースⅠ、ⅢおよびⅥのメンバーとして活動しています。
SeaBOSの取組み生物多様性に関連するステークホルダーエンゲージメント
マルハニチログループが取扱う水産物には、多くのリスク・機会があります。健康価値の高い貴重なたんぱく源として持続的に社会に提供していくためには、可能な限りリスクを排除し、機会を最大化することが必要であるという認識のもと、それらについての専門的な知識・広い見識を持つ社外有識者(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン、一般社団法人エシカル協会)との意見交換を行いました。
特集 次の100年に向けて、水産物を持続的に提供するためのマルハニチログループの使命リスクと影響の管理
当社グループでは、法務・リスク管理部を中心に、マルハニチロ(株)各部署やグループ各社のリスク管理責任者、リスク管理担当者が連携してリスク管理業務に取り組む体制を整えています。今回の分析では、自然関連リスク・機会の特定まで実施していませんが、今後予定している自然関連リスク・機会および影響の特定・評価では、当社グループの直接操業に加えて上流・下流の全てのバリューチェーンの段階に適用され、短期(0~5年)・中期(5~10年)・長期(10年~)といった全ての時間軸を対象に実施していくことを見込んでいます。想定される本プロセスでは、まず、サステナビリティ推進委員会の下部組織である事務局が、当社の各ユニット企画担当や、事業部門およびグループ会社の環境責任者・環境担当者、コーポレート部門と連携し、リスクと機会を特定するための情報収集、状況の把握を行います。サステナビリティ推進委員会では、自然関連課題についても審議され、事務局より報告・提言された自然関連リスクと影響、対応について評価していくことを予定しています。
戦略
マルハニチログループ中期経営計画では「海といのちの未来をつくるMNV2024」を掲げ、経営戦略とサステナビリティの統合に取り組んでいます。気候変動と生物多様性に事業が深く関連する当社では、2023年度にはTCFDフレームワークに基づいてシナリオ分析を行いましたが、本年度は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が2023年9月に公開したフレームワークに基づき、事業と自然との関わりを評価しました。また、本取り組みを進めるうえで、役員を含む全社に対するTNFD開示とその動向に関する説明会を実施しました。
全事業ユニットのバリューチェーンに関連する生物多様性の依存・影響度の分析とスコーピング
生物多様性の依存・影響度の分析とスコーピングは以下の流れで実施しました。
STEP1~3 対象ユニットの決定
事業と生物多様性との関わりを可視化するために、ENCORE※による全事業ユニットのバリューチェーンの上流~下流の生物多様性への依存・影響度の一次評価を実施し、その後当社グループの事業実態に合わせた依存度・影響度の二次評価を実施しました。依存度・影響度の二次評価結果は下記の依存度・影響度マッピング図の通り整理されたため、分析評価対象ユニットを漁業ユニット・海外ユニット・養殖ユニットに決定しました。
※生物多様性資産と環境変化の要因に関する地理空間データセット、および生態系サービスを生産プロセスに結びつける定性的影響/依存度評価ツール
依存度と影響度スコア
STEP4 対象魚種の決定
ユニット単位では取り扱う魚種などが多いため、以降の分析を詳細に行うために対象魚種の選定を行いました。対象魚種は経営上の重要性を考慮し決定し、漁業・海外ユニットにおいては当社グループの天然魚で38%の取り扱いを占め※、自社グループで漁獲も行うスケソウダラを対象としました。養殖ユニットにおいては海面養殖の主要魚種である、マグロ、ブリ、カンパチを対象としました。
※2022年度実施の第2回マルハニチログループ水産資源調査結果に基づく
対象魚種の選定理由と関連する拠点/地域
事業ユニット | 関連する事業プロセス | 対象魚種 | 選定理由 | 対象拠点/地域 |
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海外ユニット 漁業ユニット |
漁業 |
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養殖ユニット | 養殖 |
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影響を受けやすい地域の分析(Locate)
対象魚種それぞれの漁獲・養殖地域が、TNFDガイダンスで影響を受けやすい地域(Sensitive Locations)および重要な地域(Material Locations)と定義される、「優先地域」に該当するか分析しました。
マルハニチログループが取り扱うスケソウダラの主要漁獲地域である、アラスカ沖およびカムチャッカ半島西側を分析した結果、想定されるスケソウダラの漁獲海域の一部または大部分が、生態的及び生物学的に重要な海域(EBSAs)や保護海域内、もしくはその周辺海域である可能性を認識しました。以上によりマルハニチログループが取り扱うスケソウダラの主要漁獲地域は、すべて「優先地域」として特定しました。
マルハニチログループの国内養殖場13拠点を分析した結果、拠点から1km範囲の海域について、大分県佐伯市と鹿児島県鹿児島市の養殖場を除く11拠点の養殖場が、生物多様性の観点から重要性の高い海域(環境省)に該当することを確認しました。また13拠点すべての養殖場が、protected planet®における、Marine Protected area (MPA)に含まれることを確認しました。以上により養殖場13拠点は、すべて「優先地域」として特定しました。
スケソウダラ漁獲地域、養殖場13拠点すべて「優先地域」であることを確認
漁業(スケソウダラ)、養殖(ブリ・カンパチ・マグロ)の依存・影響の分析(Evaluate)
次に関連する依存と影響の関係の精緻化を行うため、スコーピングの際にENCOREを用いて調査した依存・影響の情報に加えて、論文・レポート等の調査を行いました。その結果、以下の表の通り当社事業のリスク・機会に繋がり得る重要な依存と影響があることを認識しました。
マルハニチログループスケソウダラ漁業における重要な依存
依存している対象 | (参考) ENCOREの 評価による 影響の大きさ |
重要な依存と判断した理由 | 依存に対する マルハニチログループ取組み |
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産卵・生育・生息地 | Very High | ENCOREでの評価の通り、産卵・生育・生息地は、特定の種の個体の繁殖に非常に強い関係を持っており、スケソウダラの資源量はこれらに大きく依存しているため。 | |
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水質 | Very High | ENCOREでの評価の通り、海水の化学的状態を保持する生態系サービスは海洋生物の産卵・生育・生息に大きな影響を与えており、スケソウダラの資源量はこれらに大きく依存しているため。 |
マルハニチログループスケソウダラ漁業における重要な影響
影響を与える対象 | (参考) ENCOREの 評価による影響の大きさ |
重要な影響と判断した理由 | 影響に対する マルハニチログループ取組み |
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海洋生態系の生息環境 | Very High | ENCOREでの評価の通り、漁業は操業の規模、漁具、漁法などにより、海洋生態系の生息環境に重要な負の影響を与える可能性があるため。 |
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天然魚の資源量 | High | ENCOREでの評価の通り、乱獲及び混獲は、天然魚の資源状態や海洋の生態系へ重要な影響を与える可能性があるため。 | |
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漁業従事者の人権 | - | ENCOREでは評価されていないが、IUU漁業などはサプライチェーン上の人権侵害への影響につながる可能性があるため。 |
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マルハニチログループ養殖における重要な依存
依存している対象 | (参考) ENCOREの 評価による影響の大きさ |
重要な依存と判断した理由 | 依存に対する マルハニチログループ取組み |
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生物由来原料 | Very High | ENCOREでの評価の通り、養殖魚の餌は天然魚等の生物由来原料が不可欠であるから。 | |
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水質(海水) | Very High | ENCOREでの評価の通り、赤潮の発生やBOD(生物化学的酸素要求量)の上昇等の海水水質の悪化は、養殖の生産性に大きく影響するため。 | |
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水流(海水) | Very High | ENCOREでの評価の通り、海水水質は養殖の生産性に大きく影響を与え、海水水質は海水水流に大きく影響されるため。 | |
洪水 | High | ENCOREでの評価の通り、洪水・暴風雨は急激な養殖環境の変化を引き起こす可能性があるため。 | |
大気・地盤 | High | ENCOREでの評価の通り、大気・地盤はの急激な変化(洪水・暴風雨等)は養殖環境の急激な変化を引き起こす可能性があり、また気候変動は海水温上昇を引き起こすことが危惧され、養殖の適地を変化させる可能性があるため。 |
マルハニチログループ養殖における重要な影響
影響を与える対象 | (参考) ENCOREの 評価による影響の大きさ |
重要な影響と判断した理由 | 影響に対する マルハニチログループ取組み |
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海洋生態系 | High | ENCOREでの評価の通り、養殖魚の餌は天然魚が主であり、漁業は操業の規模、漁具、漁法などにより、海洋生態系の生息環境に重要な負の影響を与える可能性があるため。 | |
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海底土壌・海水水質 | High | ENCOREでの評価の通り、直接的に海洋生態系に接する海面養殖においては抗生物質や流出プラスチック等による海底土壌・海水水質の汚染や、養殖魚の生息によるBOD(生物化学的酸素要求量)の上昇は、注意すべき影響と考えられるため。 | |
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他の養殖魚 | High | ENCORE では評価されていないが、抗生物質が効かない薬剤耐性菌が養殖魚の斃死と人間への健康リスクを引き起こす可能性があるため。 | |
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指標と目標
今回の分析結果にもとづき、どのようなリスク・機会があるかの分析(LEAPアプローチのAssess)、特定したリスクと機会への対応策の検討(LEAPアプローチのPrepare)を今後実施し、適時開示を進め、KGI(2030年のありたい姿)「取扱水産資源について、資源枯渇リスクがないことを確認している」の達成をめざします。