社外取締役座談会
100年先もMNVを存続させるために。
マルハニチロらしいサステナビリティを追求していきます。
Theme1.マルハニチロが長年取り組んできたサステナビリティ
舟木:
当社は2024年度よりサステナビリティ推進委員会の新体制をスタートさせ、新たに委員長に就任することになりました。委員の構成メンバーも多くが継続となり、社外取締役の皆様をオブザーバーとする体制も変わらず、これまで行ってきた取り組みを継続、踏襲しながら更に活動に磨きをかけていきたいと思います。私自身、4月より水産資源セグメント長を務めており、水産資源の持続性はより身近なテーマとして捉えていますので、当社のマテリアリティである「生物多様性と生態系の保全」にはより一層取り組みたいと考えております。
また、現中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」においても事業戦略をいかにサステナビリティに深く関わる社会価値、環境価値に結び付けるかが重要なテーマとなりますのでその観点をしっかりと意識していきたいと思います。
外ノ池:
当社は、消費者庁の消費者志向経営優良事例の表彰を本年受賞しましたが、クロマグロの完全養殖やアトランティックサーモンの陸上養殖など、サステナブルな価値と消費者にとっての価値がともに満たされる事例をつくったことが評価されたのだと思います。当社は自分たちがやらなければならないサステナビリティの課題を真剣に考え、真正面から取り組んでいます。
脱炭素をはじめあらゆるテーマに取り組んでいますが、私が特に関心を持っているのは、「2030年度までに取扱水産物の資源状態確認率100%」をめざした活動で、トレーサビリティがしっかりできることで、消費者にとっては食の持続可能性、食の安心という大きな価値があり、IUU漁業の撲滅にもつながる、非常に素晴らしい取組みだと思います。全量把握は簡単なことではありませんが、サステナビリティ推進委員会で「ここまで、できました」、「こういう工夫で難所を乗り越えていけそうです」といった報告を聞き、いつも非常に頼もしく感じています。
エドミスター: 世界一の水産会社としての水産資源へのアクセスは、我々の最大の強みです。だから、安定的に資源アクセスを守ることは最も大事にしており、「サステナビリティ」が時流に乗る以前から、当社は一生懸命頑張ってきました。当社にとって、サステナビリティはいつも中心的な課題です。環境にやさしい陸上養殖や、海面養殖での海洋汚染対策などを研究開発によって実現し、水産研究のリーダー的な存在を果たしてきました。アメリカの企業と比べても、非常に進んでいるので、そのストーリーを投資家やステークホルダーにもっと伝えるべきです。
外ノ池: そうですね。200海里問題の際に、日本の会社が世界各地の漁場を荒らしているという悪いうわさがありましたが、うわさ通りの振る舞いをしていたのなら、とっくに市場から排除されていたはずです。当社がその後、何十年も資源を守ってこられたのは、各国、各漁場の地元企業や漁師さんなど、ステークホルダーとの関係を大事にし、サステナビリティを中心に据えた経営をやってきた証しだと思っています。
舟木: 天然資源へのアクセスについて当社は今やその多くを海外の漁場に依存してますが世界の漁獲量は横ばいながら国内の漁獲量は1984年以降、毎年減少を続けています。日本は漁業、魚食については先進国と思ってきましたが近海の水産資源の管理に関しては、寧ろアラスカや北欧より遅れているという認識を持っています。また、日本は認証付きの水産物の普及も欧米に比べてなかなか進まないのが実態であり、何がそうさせているのか、どうすれば欧米並みに普及が進むのか、しっかりと分析して対応していきたい。
エドミスター: アメリカでは、国が主導してスケソウダラの資源調査、資源管理を行って漁業に介入し、大きなサクセスストーリーとなっていますが、すべてがそうではありません。鮭は資源の安定性が低く、漁獲量のアップダウンが大きいので上手くいっていません。魚種ごとに戦略を作って規制し、どうやって持続可能にしていくかを個別にしっかりと考えなければなりません。
舟木: アラスカの鮭事業は多数の小型船からなり、漁船の大型化が優位なスケソウダラ事業と異なり、ラショナリゼーションが進みにくいのが現状だと思います。
エドミスター: アラスカの漁師さんたちも日本の漁師さんたちも同様の問題を抱えています。海の町にとって魚は文化なので、いかにコミュニティと協力しながら安定的な仕組みをつくっていくかは非常に大事です。やはり、当社のような大企業がリーダーシップを取って、政府や漁業組合、町などと協力しながら設計しないといけないと思います。
舟木: はい。私たちがアラスカでスケソウダラやカニのシェアをこれだけ大きくできたのは、それができたからだと思います。
外ノ池: 地域の漁業の価値が上がり、漁師さんの収入も上がって喜ばれる仕組みができたからですよね。エドミスターさんの言うように、今後は、もっと外向けに考えや活動を伝えていけば、理解者がもっと増えると思います。
Theme2.ステークホルダーから求められる、さらなる前進への課題とは。
外ノ池:
先日、群馬の加工工場へうかがったのですが、外国人の従業員が5割を超えており、非常に多くいらして驚きました。外国人労働者の技能実習制度は近年、問題がいろいろと発生し、制度の見直しが行われたばかりなので少し心配になりました。しかし、当該工場の特定技能実習生を対象とした就労に関する満足度調査をしたところ、90%が満足という回答を得たそうです。雇用する側も、雇用される外国籍従業員も双方が満足できるような関係があることにとても安心しました。当社は海外にもたくさんの拠点がありますので、多様な人財、人権といった視点では今後も留意して見ていきたいと思いました。
加えて、女性活躍についても推進が必要です。女性社外取締役がおりますので、「働く女性を応援する会」と銘打って男女関係なく、従業員の方々とのランチミーティングを開催しました。。早く社内からの女性取締役が上がってきてほしいと思っているのですが、今年は執行役員に女性が上がらなかったのでとても残念です。取締役会も、女性取締役をぜひ育てたいという意気込みは十分に持っているのですが。
女性の働く環境としては、育休をとって復帰されている方もいて、制度などは整っていますし、活躍されている方もたくさんいらっしゃる。管理職登用のボトルネックがどこにあるのか、私もまだ特定はできていません。もしかしたら女性管理職や女性取締役というものを見慣れていないから、チャレンジしにくいだけかもしれないと思って、できるだけ女性社員の皆さんに接する機会を設けています。
エドミスター:
社外取締役の役割は本来、マネジメントをサポートかつ評価することですから、マネジメントがサステナビリティの課題を十分に認識しているのかはチェックしています。例えばKPI設定の際、重要なサステナビリティのテーマが入っているのか、さらに、KPIを評価に組み込んでいるのかをチェックする役割は非常に大事です。議論はしているけど評価に反映してないのであれば、誰もそれに反応する必要はないので、経営の基準と人事評価のやり方を考えなければいけません。
池見社長がよくおっしゃるのが、「次の100年後にマルハニチロがどういう会社になっているのかを考えましょう」、つまり、エクジステンシャルの問題です。100年後を考えたら、会社として一番根本的な問題はサステナビリティです。だから当社では、水産資源の持続可能性、地球温暖化の解決を以前からKPIに入れていますし、その比重も増やしています。
舟木: まさにエドミスターさんのおっしゃる通りだと思います。ただし、従業員が自分の評価の内何%がサステナビリティのKPIで、「これをやらないと減点になってしまう」と思っているレベルではだめです。サステナビリティのKPIが今すぐではないが、将来の経済価値にもつながっていく、ゆえにやらねばと思えるような雰囲気、風土をつくりたいと考えています。
外ノ池: そうですね。健康価値創造の取組みも始まりましたが、サステナビリティの観点でマーケティング、ブランディング、DX、商品開発、認証取得などいろいろなことを行い、新規事業ができれば、消費者の皆さんを幸せにできて、会社の利益も生めると。
舟木: そう、だからやるのだと伝えたいです。当社は社会価値、環境価値、経済価値の三位一体の価値向上を掲げていますがまさにそれぞれが依存しあっているからという意識が必要かと思います。
外ノ池: そういう種や芽はだいぶ見えてきている感じがします。
エドミスター:
当社のお客さまは、実際にサステナブルな価値の高い商品を欲しがっていると思います。「実は私たち、ここまでやっていますよ」とお客さまや消費者にうまく伝えることができれば、経済価値に変わります。
もうひとつのチャレンジは企業のESGスコアカードへの働きかけです。いろいろなスコアリングがありますが、ヨーロッパがリーダーシップをとっているので、ヨーロッパの企業の方が有利です。CO2削減の評価は大きいですが、海を守る活動はほとんどのスコアリングに入っていません。つまり、当社のやっていることはあまり評価されないので、当社のストーリーを世界の団体や評価機関に説明して基準を見直してもらうべきです。日本の政府や官僚には、もっと世界の基準作りに入っていって頑張っていって欲しいと思います。
Theme3.マルハニチロで働ことは海、そして地球を守ること
舟木: おふたりには取締役会でも非常に多様な観点から活発にご意見いただいていますし、本日の短い時間でも、非常に有意義なお話をたくさんいただきました。引き続き、サステナビリティ委員会でも、ぜひ、積極的にご発言いただきたいです。サステナビリティに関しては、日本は非常に遅れている部分と進んでいる部分が混在していますので、今、掲げているマテリアリティのKPIについても、その阻害要因をあぶり出し、緊迫感をもって取り組んでいきたいです。従業員一人ひとりに、いかに「なるほど、自分の事業の将来に対しても大事だな」と思ってもらえることが我々サステナビリティ委員会の大きな役目だと思います。
エドミスター: 海がだめになったらもう地球は終わりです。海を守ることが、地球を守るために最も大事なことです。我々は、日々仕事をしながら海を守ることができます。こんなに地球に対する影響力が大きい企業は他にはないと思いますね。でも、社内ではそういう感覚が当たり前になりすぎて、意識できなくなっている面もあるのかもしれません。当社のストーリーは、社外と社内の両方に広げていくべきです。当社は世界No.1の水産会社として、世の中に大きなインパクトがあり、当社が動けば、海を守ることができ、地球を守ることができます。だから、毎朝、起きて、この会社で働いて仕事をするだけで地球を守ることができると。
外ノ池:
確かにその通りです。エドミスターさんのお話で、従業員、政府や業界団体、消費者、すべてのステークホルダーに当社のサステナビリティを伝えていく活動がとても重要であり、経営陣のひとりとして大きな責任を感じました。
そしてひとつ、社会的に大きな責任のある仕事に注力していくには、私から見ても、皆さんお忙しすぎると感じます。今ある仕事の生産性を上げて、仕事量をもっと減らせるようなことも、ぜひ努力していってほしいです。そして、従業員の皆さん一人ひとりがサステナビリティを考える時間を増やしたい、それは取締役会からも直接、発信していきたいと思います。