社外取締役座談会

社名変更と理念体系再構築を力に変えて未来への挑戦を支える取締役会を築いていきます。
Theme1.社外取締役の責務は組織に緊張と成長をもたらす存在であること
廣嶋: 当社は2025年6月25日の第81期定時株主総会で、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行することを決議しました。社外取締役の皆さんには、この大きな転換点において、より強固な監督機能と透明性のある意思決定プロセスの確立に向けて力を発揮していただきたいと考えています。当社のように歴史が長く、多様な事業を展開している企業においては、社内の論理では見過ごされやすい課題も多く、社外の立場から率直に指摘いただけることが非常に重要です。監督機能が強まることで、執行側も挑戦的な経営判断にも踏み出せるようになります。
奥田: 社外取締役に就任して2年が経ちますが、経営や取締役会における議論の深まりを強く実感しています。社外取締役に求められるのは、単なる助言者ではなく、「経営判断の質を高める監視者」であるということです。その役割を果たすため、常に長期的な企業価値の向上という視点を軸に、社外や株主をはじめとしたステークホルダーの期待がどこにあるのかを意識しながら、必要に応じて社内の慣行や方針に対して臆せず是正を促すよう努めています。そうした率直な議論を通じて経営判断のプロセスに健全な緊張感をもたらすことが、結果として企業価値の向上に貢献するはずです。
大野: 今回、監査役から社外取締役監査等委員に就任致しましたが、常勤監査等委員として、引き続き、監査等委員以外の取締役を含む役員の職務執行を監査し、取締役会をはじめとする経営判断が健全かつ適切に行われているかを確認していきます。監査等委員会で知り得た情報やこれまでの知見・経験を活かし、将来リスクの早期発見やコンプライアンス体制の強化といった観点等から当社の健全な成長に貢献していきたいと考えています。
奥田: 社外からの視点を真に生かすためには、自らも継続的に学び、考える力を磨いていく必要があります。特に、法務・財務・人事・DXといった経営に直結する知見は、日々アップデートが欠かせません。事業理解と専門性を兼ね備えることで、取締役会の議論にも深みが生まれると考えています。
大野: 重要な会議や各種委員会への参加、選定監査等委員として認められている調査権を活用した子会社や事業所への往査、経営陣や執行役員、部署長への定期的なヒアリングを通じて得た情報をもって議論に深みを与えていきたいです。また、組織的監査の観点から、監査部や内部統制部署との連携を更に強化していくつもりです。
廣嶋: 社外取締役の皆さんが独自の視点で情報を積極的に収集し、その知見をもとに議論を深めてくださることは、取締役会の実効性を高めるうえで欠かせません。ときに耳の痛い意見もありますが、それが執行側の思考を整理し、判断の精度を高めるきっかけにもなっています。そうした健全な緊張感を土台に、これからのガバナンス体制をさらに進化させていきたいと考えています。
Theme2.ガバナンスの中核は、対話と現場理解にある制度改革の背景と、その先の深化
廣嶋:
当社は、10年前のコーポレートガバナンスコードの施行を契機に、監督と執行の分離をはじめとした本格的なガバナンス改革に着手しました。社外取締役の増員や取締役会の決議事項の見直し、執行権限の経営会議への委譲など、制度と運用の両面から段階的に整備を行ってきました。その結果として、今回の監査等委員会設置会社への移行は、1つの節目を迎えたと認識しています。
これまでの監査役会設置会社も一定の機能を果たしてきましたが、より明確で合理的な意思決定プロセスを構築するには課題もありました。今回の制度変更は、そうした課題に対する答えの1つであり、経営判断の質を高める新たな仕組みを確立するための重要な一歩だと捉えています。
奥田: 今回の制度変更によって、意思決定プロセスの透明性が高まり、取締役会における議論の質もさらに向上することが期待されます。私が社外取締役に就任した当初は、グループ全体の戦略に関する議論がやや物足りない印象でしたが、近年は社外取締役を含めた多様な視点が加わることで議論が深まり、建設的な対話が生まれています。特に事前説明会や月1回のオフサイトミーティングの存在は大きく、執行側と本音で意見を交わすことができる貴重な場です。こうした事前の意見交換があるからこそ、取締役会での議論は形式にとどまらず、実態に即した深い検討につながっていると感じています。ガバナンスの実効性を確保するためには、こうした対話の地盤が不可欠です。

大野: 初めてオフサイトミーティングに参加した際、提供される情報の質と量に驚かされました。経営課題や戦略の方向性だけでなく、未解決の課題や問題意識まで率直に共有してくれる執行側の姿勢に、強い信頼感を持ちました。監査等委員としては、こうした情報や活動で知り得た情報を多角的に把握しつつ、取締役会での議論の焦点・論点を適切に見極めることが重要だと感じています。
廣嶋: 制度を整えて終わりではありません。透明性ある情報開示と、対話を重ねる姿勢こそが、当社のガバナンスを実態として機能させる柱だと捉えています。形式的に整った枠組みに満足するのではなく、内容のある議論を継続できるかどうかが、真の実効性を左右します。その意味でも、社外取締役が現場への理解を深め、自ら課題を掘り下げて発言してくださることは、私たち執行側の視野を広げ、経営判断の質を引き上げるうえで非常に重要な刺激となっています。
奥田: リスクコンプライアンスに関しても、特別部会の設置や子会社への主導的な対応など、従来にないスピード感で取り組まれていると感じます。課題を先送りせず、早期に打ち手を講じようとする姿勢は、社内外の信頼醸成にもつながるはずです。一方で、PBRが1倍を下回るなど、依然として市場からの評価が追いついていないのも現実です。制度や枠組みを整えただけでは市場からの評価は上がりません。新中期経営計画で掲げるバリューサイクルの構築・強化やグローカル戦略の推進といった成長戦略を、いかに実行し、具体的な成果として社会に示していけるか。その真価が問われていると感じています。
大野: 確かに成長戦略を進めるうえでリスク対応の強化は不可欠です。当社では、ガバナンスの実効性を高めるための運用改善を行っていますが、PDCAを回す仕組みが徐々に機能し始め、「再発防止」から「未然防止」への意識の進化が見られるのは、大きな成果です。とりわけ、内部統制の運用やグループ会社との役割分担などにおいては、まだ改善の余地もありますが、方向性としては着実に前に進んでいる実感があります。
Theme3.ソリューションカンパニーへの変革に向けて新たなパーパス・ミッションと社名に込めた意思
廣嶋:
今回の新たな長期ビジョンの策定にあわせて、私たちはグループの理念体系を抜本的に見直し、2026年3月1日付で社名を『Umios株式会社』へ変更するという、大きな決断に至りました。
出発点となったのは、経営陣6名が集まり、当社の将来のあるべき姿を徹底的に議論したことにあります。その中で見えてきたのは、私たちがめざすグローバル企業としての姿と、現在の立ち位置との間にあるギャップでした。マルハニチロという社名は長年にわたり多くの人々に親しまれてきましたが、今後の挑戦を象徴するには限界があるのではないかという課題意識が共有されたのです。この社名変更は単なる“屋号の刷新”ではありません。パーパス・ミッションを新たに策定したうえで、パーパス・ミッションと戦略の関係性を再構築し、次なるステージに進むための本質的な改革だと捉えています。

奥田: 最初にオフサイトミーティングで「社名を変えたい」という話を聞いたときは、正直、戸惑いと驚きがありました。マルハニチロという名前には、歴史と信頼が宿っており、その変更には相当の覚悟と明確な意図が必要だと感じたからです。ただ執行側からは、バリューサイクルの強化やグローカル戦略の推進といった背景と意図が丁寧に説明されました。特に、海外でマルハニチロが発音しづらく覚えにくいという実務的な課題や、縦割りの印象を払拭し、統合的な組織体制を築くために新たな社名が必要だという論点には、大きな納得感がありました。
大野: 当時、監査役でしたので、まだオフサイトミーティングには参加していませんでしたが、取締役会でこの議題が取り上げられた際には、すでに社内で徹底的な議論が重ねられてきたことがよく伝わってきました。社名変更とは、単なるネーミングの変更ではありません。長く培われてきたブランドや企業文化と、意識的に距離を置く選択でもあります。その決断からは、「これまでの単なる延長線上ではなく、更にその上をいく新しい未来を切り拓く」という経営陣の強い意思を感じました。

廣嶋: 実際、経営会議の中では当然ながら反発の声も上がりましたが、池見社長が「全員が納得するまで議論を尽くす」と繰り返し呼びかけ、粘り強く対話を続けたことで、最終的に経営陣全員が合意に至りました。その後もオフサイトミーティングや取締役会の場を通じて、社外取締役の皆さんに丁寧に背景や意義を説明しながら、合意形成を着実に進めていったという経緯があります。
奥田: このプロセスには、社外取締役として強く共感しました。違和感や懸念も含めて意見を率直にぶつけ合い、最終的に全員が同じ方向を向くに至った。その過程自体が、組織としての覚悟と成熟を示すものだったと思います。
大野: 社名変更という目に見える変化も重要ですが、それ以上に意義深いのは、理念体系そのものを整理し直したことだと思います。パーパスやミッションが全従業員の行動指針となり、現場での判断や日常業務にまで落とし込まれていくようになれば、今回の取組みは本当の意味での価値を持つはずです。
廣嶋: 新たな社名やコーポレート・アイデンティティの刷新は、グローバル展開を本格化させていく上で避けて通れないものでした。パーパス・ミッションと戦略を結びつけ、従業員一人ひとりが将来のあるべき姿を具体的に描けるようにすることが、変革を根づかせるうえで不可欠です。今後も社外取締役の皆さんと力を合わせながら、この取組みを確かな成果に結びつけていきたいと考えています。
Theme4.未来を見据えた挑戦と信頼される経営基盤の構築へ
奥田: 企業価値のさらなる向上に向けて、経営陣だけでなく、従業員一人ひとりが変革を自分事として捉え、主体的に未来をつくっていく。その姿勢こそが、これからの企業にとって不可欠な力になると考えています。私たち社外取締役の役割は、そうした挑戦を支える土台として、透明性の高い意思決定と、長期的な視点に立った監督を着実に果たしていくことにあると思っています。
大野: 企業の成長は、制度ではなく、「人」に依拠するところが大きいです。従業員が誇りとやりがいを感じながら、前向きに働ける環境づくりが、持続的な成長の原動力につながります。現在取り組んでいる人財育成やカルチャー改革といった“内側からの改革”を、きちんと積み上げていくことが大切だと感じています。
廣嶋: 私たちがこれまでガバナンス改革を進めてきた中で、最も強く実感しているのは、透明性と対話こそが企業を強くするということです。制度や仕組みを整えるだけでは、本当の意味での実効性は生まれません。現場と経営、そして社外取締役とが、相互に信頼し合い、率直な意見を交わせる関係性を築けてこそ、ガバナンスが企業価値の源泉となっていくのです。
奥田: 2026年には、新たな社名とパーパスのもと、企業としての存在意義があらためて問われるステージが始まります。そうした転換点だからこそ、私たち自身が覚悟を持ち、外に対して「信頼される企業」として何を示せるかが重要です。制度改革はスタートラインにすぎません。これから先は、信頼に足る経営基盤をどう築き、それをいかに行動で証明していけるかが真価を問われる局面です。
大野: こうした改革に本気で挑むには、「現場の声」に耳を傾き続けることが欠かせません。これからも現場や子会社との対話を重ね、必要な情報を取締役会に還元しつつ、適切なリスクテイクの後押しも行っていきたいと考えています。経営と現場が一体となって挑戦する文化が、企業全体の持続可能性を支える力になると信じています。
廣嶋:
こうした監督機能や信頼の基盤があってこそ、私たちは、「変わる覚悟」とともに未来へと舵を切ることができます。この挑戦に本気で向き合えるのは、従業員一人ひとりが意思を持ち、支え合い、信じ合える組織風土があるからこそです。これからの私たちは、パーパス・ミッションを語るだけでなく、それを“行動”で体現していくフェーズに入っています。
私たちの変革への挑戦に、ステークホルダーの皆さまが共感してくだされば幸いです。
