SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

エコシステム(生態系)としてのサケの役割


母川に帰ってきたサケの大群
 川で生まれ、海に出て、再び川に帰ってくるサケ。日本の川から出たシロサケは、オホーツク海からベーリング海へ進み、ベーリング海やアラスカ湾でエサを食べながら回遊し、約4年間かけて、約16000キロメートルを移動して来るといわれています。
 シロサケのほか、移動距離や移動ルートは異なるものの、カラフトマスも、サクラマスも、ベニザケも、ギンザケも、キングサーモン(マスノスケ)も、親が川に産んだ卵から、稚魚になり川を下り、大海原をながいながい時間をかけて成長しながら回遊して、今度は立派な親魚になって、産卵のため再び生まれた川に戻ってきます。
 サケは成長とともに、何を食べて育つのか、また逆に、何に食べられているのか。地球の食物連鎖のなかで、サケはどのようなポジションにいるのでしょうか。
 また、サケは地球上の生態系という大きなエコシステムのなかでどのような役割をもち、どのように環境バランスを担っているのでしょうか。
サケの一生と食物連鎖
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サケの死がい 生き物たちの命の綱に――(標津サーモン科学館、市村政樹さんのレポートより)
 産卵を終え、死んだサケは多くの生物に利用されています。まず、カラスやカモメたちに目を突かれます。皮は厚いため、容易に食べられるのは目の部分です。川岸に打ち上げられたサケの死がいはほとんどが目がなくなっています。また、キタキツネたちによって陸上に運ばれ、食べ残されたサケが森の中でも見つけることができます。動物に食べられた残りは、陸上や川の中で微生物によって分解されます。10月くらいまでは水温が高いため分解も早く、水中では1カ月ほどで骨と皮だけになっているものもあります。

サケの産卵シーン 写真提供:市村政樹
 12月を過ぎるころから、水温は零度近くまで下がり“長持ち”します。また、陸に揚げられると、冷凍状態で乾燥し、干し魚のようになるものもあります。
 こうなった死がいは、厳しい冬を過ごす野生動物たちが生き延びる貴重なえさになっているようです。実際、死がいが多い流域では、飛来するオジロワシ、オオワシを見かけます。同じ川でも死がいがない場所では、オジロワシたちの姿はあまり見かけません。また、キタキツネが干からびたサケをくわえている姿を見かけることもあります。


産卵を終えて死がいとなったサケ 写真提供:市村政樹
 雪解けのころに川へ行くと、あんなにたくさんあった死がいは探すのが困難なほどきれいになくなっています。サケたちの死によって、海の恵みが陸地へともたらされているのです。豊かな自然が残ってさえいれば、無駄になっているわけではありません。
 彼らの死がいはお世辞にも美しいとは言えませんが、やがて土に返り、草木を育て、巡り巡って、自分の子供たちのエサとなる小さな昆虫たちをはぐくむのです。
海から川へ。そして森へ。地球規模でサケは、栄養エネルギーの運搬者です。
 サケはオホーツク、ベーリング海、北太平洋、アラスカ、北アメリカ、広く環北太平洋の海域で回遊しています。
 それらの海の沿岸にあるサケの産卵する川で、サケ以外の魚類や植物・動物の細胞組織の中の「窒素」や「炭素」に着目して、調べている科学者たちがいます。その報告によりますと、川を離れたことのない魚であるにもかかわらず、その体内に含まれる「窒素」や「炭素」の多くは、海から来た「窒素」や「炭素」から構成されているというのです。


カモメに食べられるサケの死がい


サケの遡上する川の上流は森につながっている
 川の淡水魚が、産卵後に死んだサケの死がいを食べることによって、海洋性の「窒素」や「炭素」を体内に摂取しているらしいのです。つまり、サケは内陸の生命に海の栄養素やミネラルをもたらしている「運搬者」といえるのです。
 また、川岸で育つ草木や周辺の樹木にも海洋性の「窒素」や「炭素」が含まれていることが確認されています。植物はサケの死がいで肥えた土壌や、動物の排泄物からも栄養を補給しているのです。ヒグマは遡上する生きたサケを食べ、シカ、エルクなど大型の動物は産卵後のサケの死がいを直接食べることが知られています。サケから、クマをはじめとする動物、微生物、植物、もちろん、人間も。海、川、森。私たちすべての生命がエコシステムとして、つながっているのです。
海でエサをたっぷりとって海に下ったときの2000倍に大きく成長した何百万尾ものサケが川を遡上し、産卵を終え、死がいとなり、たくさんの動物植物のエサとなり養分となることは、生態学的に重要な食物連鎖です。サケは地球規模のエコシステムにおいても「栄養エネルギーの運搬」という大きな役割を果たしているといえます。
参考・引用文献:北海道新聞1999年12月10日ネイチャー通信11市村政樹・標津サーモン科学館 『サケ・マス魚類のわかる本』著者 井田 齊+奥山 文弥(株)山と渓谷社 2002年10月25日 初版第2刷発行 「日本のサケ」市川健夫著 NHKブックス昭和52年8月発行
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