SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

環境持続型のアラスカ漁業2
1869年にアラスカが米国領土になり、連邦政府がアラスカの水産業を統制していましたが、サケ資源をアラスカが自ら管理したいという悲願があり、州昇格を熱望していました。
第二次世界大戦後にアラスカ水産業界は、ワシントン大学のW.F.Thompsonらの研究チームに、サケ漁の科学的な管理計画を策定してほしいと要請。それに基づいてアラスカは1959年、念願の州に昇格しました。
連邦政府からサケ資源の管理を引き継いだのが、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)です。この年はアラスカ全体で2500万尾のサケの水揚げしかなかったのですが、この年からアラスカ州漁業狩猟省(ADFG)は、「アラスカ商業漁業管理制度」を早速実施したのです。

この管理法は、遡上するある一定数の親サケを確実に上流に逃がしてやることで、「遡上確保(fixed escapement)」と呼ばれるものでした。
河川で産卵する親サケの数(エスケープメント)を十分確保することによって、長期的な資源の安定を維持しようとしたのです。
しかし、サケの漁獲量はその後も減少を続けたことから、1973年、アラスカ州議会は、米国で初の「入漁規制プログラム」を実施する法案を可決し、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)は、漁業者の制限と漁具の制限を行いました。漁業者はライセンスが必要になり、細かい捕獲規制がしかれました。また、アラスカサーモンの人工孵化場を設置し始めたことも、サケ資源の回復、増加に大きく貢献しました。
アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)の専門家が生物学的調査を行い、計算した資源量の分析結果をもとに、アラスカ漁業委員会(BoF)は、漁獲方針と規制、漁獲枠を決定。漁獲にかかわる政策、漁期規制、割当て(バグ制限、漁獲制限、性別体長制限)を設定し、追跡・捕獲・輸送方法を検討し、流域、生息地の改善を行います。このことにより各種サーモンの年度別資源量に応じた割当産卵魚数は、毎年確実に目標を達成し続けています。
アラスカの商業漁業は、州と連邦政府の協同管轄下にありますが、一般的に州がサケ、ニシン、カニ、エビ、その他甲殻類を管理し、連邦政府は、沿岸から3カイリまでの範囲を除く底魚(ソコウオdemersal fish)の管理がゆだねられています。管理の主体は、州がアラスカ州漁業狩猟省(ADFG)であり、連邦政府は国立海洋漁業局(NMFS)となっていますが、多くの場合、アラスカの水産業は連邦政府、州政府、国際諮問委員会やその他水産資源の管理に影響を及ぼす団体との調整のもとに置かれています。
アラスカは30年以上にもわたる資源管理プログラム実行の結果、毎年数多くのサーモンが母川回帰をおこない、天然サーモンの漁獲量は豊富で高水準となり、豊かなアラスカの環境を維持しています。
サケ資源を守るアラスカ州の取組み 1漁業管理
世界に高い評価を受けている「アラスカ商業漁業管理制度」は環境保全と経済発展を阻害することなく、持続可能な範囲での最大漁獲量が確保できるようにデザインされています。アラスカ州の主要漁業(サーモン、底魚、オヒョウ、カニ)は、州または連邦政府の複数の機関が管理しています。乱獲防止で持続可能な漁業へ。
1、漁場の管理
1、河川漁場の管理(水産資源の相互協力管理体制)

アラスカではアラスカ州漁業狩猟省(ADFG)が、特定の河川など、遡上するサーモンの乱獲を防止し、親サケの一定数の保全と管理を担当。場所によっては魚群探知機を使ってサケの遡上数を正確にカウントしており、その結果は測定地点ごとに毎週更新され、公表もされています。生物学的研究のための管理現場は州全域で15000箇所に設置されています。アラスカ漁業委員会(BoF)は、政策と漁獲枠を担当。アラスカ州公安省野生生物保護警察庁は、違反者を摘発します。


サケ遡上のシーズン中、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)の生物科学者は、州全域15000箇所で親サケの遡上状況を管理しています。cAK Dept Fish & Game
2、3カイリ(3×1852m) 漁場の管理(水産資源の相互協力管理体制)

アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)などの州政府機関が、海岸線から通常3カイリ以内の漁業管理をします。

3、200カイリ(200×1852m) 漁場の管理(水産資源の相互協力管理体制)

米国連邦政府機関には、沿岸から200カイリの範囲の米国排他的経済水域EEZにおける漁業管理権限が与えられています。
2、漁場単位の細やかな管理
サケ遡上のシーズン中、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)の生物科学者によって現場単位の管理方針が決定されます。州全域で15000箇所で資源管理を行っています。
● 漁場の開放・閉鎖・禁止の権限
たとえば目標と異なる魚群を捕獲しそうな遠い沖合いや、サーモンが密集し乱獲の恐れが ある海岸付近では、漁を禁止しています。

● 漁のシーズン中、サーモンの動きや水位、その他の状況を毎日チェックし、漁場の開放・閉鎖を一日単位でコントロールしています。

*右のグラフはカッパー川のベニザケ漁獲管理データです。産卵のために捕獲しないでおく親サケ数の「割合産卵魚数」と実際に捕獲した「漁獲数」。バランスを考え、次年度の計画を立てて生きます。
漁業を熟知した地方当局の生物学者により、現場単位の漁業管理が行われている。
cAK Dept Fish & Game
3、漁業ライセンス制度の導入(1974年より)
入漁制限(リミティッド・エントリー)=「漁業ライセンス発行制限制度」。この漁業ライセンス発行制限制度により、アラスカサーモンの商業捕獲にはライセンスが必要です。ライセンスは一定数に定められており、商業サーモン漁を新たに始める者は別の漁師から既存のライセンスを購入しなければなりません。この入漁制限(リミティッド・エントリー)により、一ヶ所の漁場に入れる漁業者数が厳しく制限されます。
このことにより海上での漁船同士の混雑や衝突も防げますし、乱獲を防ぎ、サーモン資源の安定を長期的に支えます。
世界の漁場では、漁船の漁獲能力がより向上し、また漁業者数増加に対するなんら規制もなく、より多くの漁獲量を求めてることに歯止めがかかっていないのが実情のようです。
夏になるとアラスカの沖合いに見られるトロール船の漁業風景。トロール漁で水揚げされたサケはその安定した品質により高い評価を得ている。
刺し網漁では網目の大きさも目的別に規定されている。同じサイズ、同じ種類のサケの捕獲に有効な漁法なのである。(撮影:Yuji Ishii) 巻き網漁では、一度に250~1,500尾以上の大量のサケが捕獲されることも少なくない。(撮影:John Hyde,cAKDF& G)
漁船は水産加工場のテンダーボート(母船)に捕獲したサケを移す。母船上では5種類のサケに分類し、籠に入れて計量し記録した後、テンダーボート(母船)の船倉に納める。(撮影:手塚薫)
4、漁具・漁法の規制
アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)では、サーモンの管理と保護、また海洋性哺乳類や鳥類の誤った捕獲を防止するため、巻き網、刺し網などの漁具は目につきにくいモノフィラメント製ではなく、目立ちやすいマルチフィラメント製を使うように定めています。
そして、これらの漁具は魚の捕獲状況がわかるよう、水面に浮いていなければなりません。
すべての網の長さ、奥行、使用期間の制限があり、特にトロール漁は漁具と使用法について厳しい規制が課せられています。また、サーモン漁に底引網の使用は許可されていません。
漁具・漁法の規制例
漁期の設定・・・サーモンの遡上数や天候、その他のパラメータを適用し決定。毎年、漁の解禁やクローズ、オープン海域などについては実際の漁がおこなわれている期間に随時、修正・変更がされます。
漁の時間と場所の設定・・・指定された時間や海域のみで漁ができ、それ以外の時間や場所では一切漁を許可しない方法。
漁船のサイズの制限・・・特定の漁場において漁船のサイズを制限。たとえばブリストル湾のサーモン漁で操業を許される船のサイズは最長32フィートまで、など。
漁具の制限(使用禁止漁具の設定)・・・網の種類、網目の大きさを含む漁具のサイズやデザイン、使用方法に細かい規定があるなど、ターゲットになる魚種ごとに漁具の制限があります。また、深海魚がかかりやすい延縄や海底に達する刺し網、捕獲罠など、特定の種類の漁具は完全に使用を禁止されています。
漁法の制限(トロール漁・刺し網漁・巻き網漁)
5、最新の科学調査で、漁獲可能量(TAC)を管理
毎年、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)、米国海洋漁業局(NMFS)そして国際太平洋オヒョウ委員会の科学者達が、それぞれの権限のもとに漁業資源(サーモン、底魚、カニ、オヒョウ)の調査と分析を行っています。
サーモンはスケトウダラなどの底魚や、カニ、オヒョウなどと違い、産卵のために生まれた河川に戻るという特性があるため、個々の魚群ごとの動きを研究・予測することが必要になってきます。ある川におけるサーモンの遡上の群れは、同じ川、または近隣の川のサーモンの産卵、遡上の群れとは独立した、個別のものとして理解・予測・管理されなくてはなりません。
アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)は天然サーモンの遡上に関する総合的で膨大なデータベースを蓄積してきました。

アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)から委託された科学者たちは、このデータをもとに、毎年河川ごとのエスケープメント(遡上親サケ数)目標を設定し、漁期ごとの天然サーモンの遡上数やどの時期に群れの数が最も増え、また、どの時期に群れの数が最も減少したのか、といった評価結果を蓄積しています。
エスケープメント(遡上親サケ数)目標を達成することは、毎年アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)の最優先課題になっています。

アラスカでは産卵のために一旦川に入ったサーモンを商業目的で漁獲することは法律で禁止されており、河川ごとに設定されたエスケープメント(遡上親サケ数)目標が達成されて、はじめて商業目的のサーモン漁が指定海域ごとに許可されます。
漁獲量を制限するための「割当制度」は乱獲を防ぐうえで効果的な管理方法のひとつです。
「割当制度」で使用される数値は漁獲可能量(TAC)です。
「割当制度」は、科学的情報を使用し個体数の状況を見極めることを目標にしている「資源評価」と関連し、持続的な漁業を行うために必要な計量的な管理方法です。
●米国海洋漁業局(NMFS)、アラスカ州漁業狩猟省(ADFG)
漁獲可能量(TAC)と河川遡上数を超えた場合、漁獲を停止させる権限をもっています。
●北太平洋漁業管理委員会  
漁獲可能量(TAC)=「超えてはいけない漁獲量のリミット」と厳しく設定しています。 北太平洋での海域でアラスカ州の漁師操業中に漁獲量がTACに達すると、北太平洋漁業管理委員会は直ちに禁漁を命じ、漁業者も無条件でこれに従います。
漁獲可能量(TAC)について
アラスカの北太平洋漁業管理委員会だけではなく、世界各国の漁業管理局がTACを定めています。
北太平洋での海域でアラスカ州の漁師たちは操業中に漁獲量がTACに達すると、漁業者も無条件にこれに従います。
アラスカの強力な漁業管理システムは十分に機能を果たしており、理論と実践が一体となっているすぐれた例です。
6、漁業規制の執行 米国海洋漁業局の法執行局(NMFS OLE)、アラスカ州公安省野生生物保護警察庁(州警察)
アラスカでは、州と連邦政府双方が法の執行を分担しあい、漁業者や水産加工業者、スポーツフィッシャーマンたちの活動や運営を適切な方法でモニターし、管理しています。
州が管理する漁業の規制執行機関はアラスカ州公安省野性生物保護警察庁(以下州警察)です。州警察は公衆向けの啓蒙活動やパトロール、そして実際、法の執行を通じて、商業漁業やスポーツフィッシング、水生動物の生息地に関する規制が順守されるよう統括する任務を担います。

連邦管理下の漁業については、米国海洋漁業局の法執行局(NMFS OLE)が37か条にわたる連邦法令のほか、海洋資源の保全と保護、またはNMFS管轄の重要案件に関する多くの条例を執行する特別権限をもっています。
米国海洋漁業局の役人たちも海上監視プログラムに深く関わっています。NMFSによって認証されるこれらの民間科学オブザーバーは、民間業者によって雇用され、北太平洋漁業管理委員の指令の下で漁船に乗船しています。
オブザーバーは漁業関連資料やデータを収集し、規制違反の疑いがあるケースをOLEに報告します。これにより、年間約300件の追跡調査や取調べが行われています。ルールに違反していると判断された場合、NMFSには漁船や漁具、漁獲物の差し押さえや没収の権限があります。
アラスカ州公安省野生生物保護警察庁は、任務遂行のため様々な種類の航空機35機と パトロール用船45隻を所有しています。
引用・参考文献
基盤研究(A)「先住民による海洋資源の流通と管理」(研究代表者 岸上伸啓編集 課題番号15251012)研究成果報告書 2007年発行
「アラスカ産シーフード-持続可能な漁業管理運営の世界的モデル」アラスカシーフードマーケティング協会2007年発行
「Alaska Salmonバイヤーズガイドブック」アラスカシーフードマーケティング協会発行
写真提供:Alaska Seafood Marketing Institute (ASMI) ,アラスカシーフードマーケティング協会
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