SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

ヨーロッパの魚道
ここにご紹介するヨーロッパの魚道は、中村俊六氏(豊橋技術科学大学名誉教授)がみずから取材、撮影され、著書「魚道のはなし」(財団法人リバーフロント整備センター編集)にまとめた内容から、抜粋させていただいたものです。
イギリス(スコットランド)の魚道
イギリスの魚道はそのほとんどがスコットランドに集中している。わが国が明治時代に模倣した「階段式魚道」(*1)の原型は、このスコットランドのもので、サケやマスなどの大型魚を対象にしていて、魚道自体も大型で、水の流量も多い。水路の左右交互に「切り欠き(きりかき)」(*2)と「潜孔(せんこう)」(*3)が付いている。しかし、越流(えつりゅう)(*4)は切り欠きだけに限定されていて、プール内(*5)にはゆったりとした流れの休息場所が確保されている。
古典的階段式魚道。浅いnotch(切り欠き)が交互に入り、小さなorifice(潜孔)が付いている。
魚の上る速度と川の水の越流速度の関係について
用語解説
(*1) 階段式魚道には、水が全面的に越流する古典的なものや、一部「きりかき」や、壁に穴をあけた「潜孔」があるものがある。
(*2) 切り欠きnotchは浅い切れ込みのタイプ、深い切れ込みのタイプがある。左右交互に切り欠きが入った魚道が多い。
(*3) 潜孔orificeはうなぎ穴と呼ばれる小さなものから、大きく開けられているタイプのものがある。
(*4) 越流とは壁の上を乗り超える水の流れ。
(*5) 階段状魚道の壁と壁の間をプールという。


観察窓から潜孔を通過するサケを観察できる。

スコットランドのTummel川の潜孔式魚道は世界的にも有名。
観察窓から潜孔を通過するアトランティックサーモン(太西洋サケ)を観察することができます。


ピトロコリー・ダムに設置された潜孔式魚道
サケが潜孔を通過し、遡上する図
ノルウェーの魚道
ノルウェーの中部、ナムソス近くのナムセン川には、ダムのみではなく自然の滝にたくさんの魚道が付けられている。それらは、もちろんノルウェー型の階段式魚道(*6)であり、アトランティックサーモン(太西洋サケ)が主対象魚である。ただし、ダム自体が自然の滝を利用したもので、魚道の大部分はその昔は自然の滝であった岩盤の中にトンネルを掘って作られていたり、20mから30mもあろうかという自然の滝を迂回して、岩盤中に延々とトンネルが掘られている魚道などがあり、魚道を見たいと思っても、その出口を見つけるのがやっと、というものが少なくない。
用語解説
(*6) 階段式魚道の切り欠きと潜孔が中央部にあるもの。その位置をプールごとに少しづつずらすごとによって魚がのぼりやすく工夫されている。
フィンランドの魚道
フィンランドのボスニア湾奥に注ぐ川は、アトランティックサーモン(太西洋サケ)の産卵河川であり、また、食用として人気の高いヤツメウナギも多い。これらの魚たちのために魚道の改良や新設が相次いでいる。
オール大学ホーリ教授の研究室設計のデニール式魚道(*7)
用語解説
(*7) デニール式:水路の側壁や底部に阻流材と呼ばれる突起を、ある独特の角度で細かく配置したもの。阻流材は水勢を弱めて流れを水面近くに集中させるので、上層が速く低層が遅い流れになる。比較的急勾配で距離の短いものが多い。
デニール式魚道
スウェーデンの魚道
ノルウェー型の階段式魚道


木造のデニール式魚道
この国には、古い木造のデニール式魚道から、新しくて大きい階段式魚道まで、各種多数の魚道があるが、多くはアトランティックサーモン(太西洋サケ)を対象としています。
スイスの魚道
スイスにはいろいろな種類の魚道があるが、何といっても多自然型のものが特徴的である。
全面階段式魚道
上2点の写真はチューリッヒ近郊、テス川のロアバス地区にある全面階段式魚道である。見た目にはわからないが、魚道内に魚巣ブロック状の空隙が多数設けられていて、生息場を兼ねているのが特徴的であり、主対象魚は70センチほどもジャンプするカワマスであるという。


自然の滝に設けられた階段式魚道
左の写真は同じくテス川のハルト地区にある自然の滝に設けられた階段式魚道である。接着剤や特殊な塗料を駆使して、自然の岩をくりぬいてつくったように見せた工夫が楽しい。
フランスの魚道


比較的低落差のダムでは舟通し型デニールも見られる。
(フランス南部のツールース市)


ガロンヌ川のダムに見られるエレベーター式魚道
フランスはデニール式魚道発祥の地であるだけにたくさんのデニール式魚道を持っているが、それらの多くは、ノルマンジー近くのイギリス海峡に注ぐ川や、南のスペインとの国境近くに集中していると聞く。
中央部、ボルドー近くではガロンヌ川にあるダムでエレベーター式魚道を見ることができる。アローサという超緩流河川の回遊魚を遡上させるにはこれしかない、ということでアメリカ東海岸のもの(アトランティックサーモンの遡上にも使用)を参考にして作られたという。
参考・引用文献:「魚道のはなし」中村俊六著、財団法人リバーフロント整備センター編集1997年5月30日第3刷発行
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