SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

鮭と文化

  アラスカダッチハーバーのロシア正教会。
1894年から1896年にかけて建てられたもの。大変美しい。
ウナラスカの象徴。
  山の上から見たダッチハーバーのダウンタウン。
左側が海、右側がウナラスカレイク(湖)。イリウリウック川にそそぐ
We Love SalmonFishing!!
世界の鮭釣り事情 アラスカ編vol.3 佐々木 潤
第三回 キャッチ & イート
①鮭の恩恵
(左)ブルーベリー、北米産野生種 (右)サーモンベリー
紅鮭が遡上を始める6月、ここアラスカ、ダッチハーバーはようやく緑に包まれます。緑と言っても木々ではありません。コケや背の低い植物達です。風の強いアリューシャン列島では木が育たないのです。8月にはブルーベリーやサーモンベリーなど多くの果実が実り、色とりどりの花が咲き短くても夏の訪れを知らせてくれます。そして銀鮭が遡上を終える10月中頃には雪が降り始め、長く厳しい冬を迎えます。
厳しい冬はイーグルの気性も荒くなる
厳しい冬は人にとってだけでなく、野生動物には大きな脅威となります。冬になると、警戒心が強く普段は人には近づかないイーグルも気性が荒くなり、人の出すごみをあさったり、水産加工場に水揚げされる魚を狙ったりと人に近づいてきます。場合によっては人が襲われる事もあります。人も動物も皆神経をすり減らしながら長い冬を耐え、そしてまた鮭の遡上と共に春を迎えます。
わさわさとよってきた白頭ワシ(イーグル)、アメリカの国鳥。冬の間の食べ物の少ない時だけでなく、1年を通してよくごみ箱をあさっている。

そういった意味ではアラスカでは鮭の遡上は安らげる季節の到来の象徴とも言えると思います。鮭は人や動物の貴重な食料となり、更に人に釣りという娯楽まで与えてくれます。また、ダッチハーバーに住む日本人には鮭の存在は大きな意味があります。それは刺身やイクラなど、きわめて貴重な食材が手に入る事です。海外の、ましてこのような僻地のスーパーでは刺身で食べられる魚などまず手に入りません。

②キャッチ & イート
アラスカウインターの美しい風景
アリエスカシーフーズの工場全景。海(キャプテンズベイ)に面している方がプラント、手前の建物群は宿舎等。働いている人はみんなここに住んでいる。
ここダッチハーバーに遡上する3種の中では食味の良い順番は紅鮭、銀鮭、カラフトマスとなります。いずれの鮭も川に遡上を開始すると身の食味が落ち、また、イクラもピンポンと呼ばれる皮の厚い卵になり食感が悪くなりますので美味しい鮭を食べるには遡上前に釣る必要があります。
ピンクサーモン
キングサーモン
また、鮮度保持と寄生虫対策を怠るとせっかくの料理が台無しになってしまいます。釣り上げた魚は直ぐに活け締めにし、血抜きを行うと生臭さを抑える事ができ、身もしまった状態で持ち帰る事ができます。特にカラフトマスは鮮度が落ちやすい鮭ですのでしっかり処理しないと見崩れがおきてしまいます。また、活け締めを行った後はイクラと内臓を取り除いておく事をお勧めします。
アニサキスは白く細いミミズの様に見えます。全長は19.0~36.0mm 。実物を見るとグニュグニュッととぐろを巻いているのでもっと小さく見えます。
鮭類に寄生している代表的な寄生虫はアニサキスですが、主に肝臓や胃袋など内臓部に寄生しており、宿主である鮭が死ぬとアニサキスは外へ出ようと内臓から身へと移動します。早期に内臓を取り出すことがアニサキス対策になりますが、これだけでは不十分です。初めから身に寄生している個体もいますし、特にハラスと呼ばれる腹身部分は寄生率が高く、料理に使用する程度のしょうゆやわさび、酢や食塩では死滅しません。加熱をするか、-20℃以下で24時間以上凍結しなければ死滅させる事が出来ません。天然の紅鮭の刺身は非常に美味ですが、刺身で食べるには必ず冷凍が必要です。生きたアニサキスを食べてしまうと、胃や腸壁に侵入し激しい腹痛をもたらす事が有ります。

アニサキスの最終宿主はイルカやクジラ、アザラシ、トドなど海獣哺乳類です。これらに寄生し、成虫となったアニサキスは海獣類の体内で産卵し、卵は糞便と共に海中に排出されます。卵や幼虫を小型魚が食べる、或いはオキアミなどの甲殻類が食べ、それを大型魚が食べる事で魚に寄生し、これらの魚を海獣類が食べ、寄生し成虫に成るというのがアニサキスの生活史です。鮭類に留まらず、海獣類の餌となる生物にはアニサキスが寄生している可能性があります。特に海獣類の生息数が多い高緯度冷水域に生活する魚には多く、サケ、ニシン、タラ、サンマ、サバ、アジ、イカなどによく見られます。私の勤務する水産加工場では、白身フライなどに使われるタラのフィレを生産していますが、写真のように下から光を当てタラのフィレを透視し、アニサキスの混入がないかチェックをしています。
タラのフィレの品質検査は下から光を当てて行う
鮮度抜群の刺身を食べられる事は釣り人最大の特権かもしれません。しかし、魚をきちんと処理しなければおいしく安全に頂く事は出来ません。上記はアニサキスについてお話させて頂きましたが、世界各地に色々な魚がいるのと同じように寄生虫もまた色々います。また、毒を持っている魚もいます。しかしそれが天然魚であり、天然とは言い換えると野生なのです。釣堀以外で釣りの対象魚となる魚はほぼ全て天然魚といえると思います。魚を釣る、鮮度管理をする、安全に調理する、おいしく食べる、という漁獲から消費までの流れを経験できるのは漁師か釣り人しかいません。最近では食育という言葉が頻繁に使われるようになりましたが、釣りを通して魚の食べ方を学ぶという事も一つの食育なのではないかと思います。
佐々木 潤氏プロフィール
Sasaki Jun
2003年マルハ(株)(現(株)マルハニチロ水産)入社。2007年より北米を代表する水産会社アリエスカシーフーズ社の副工場長としてアラスカ・ダッチハーバーのすりみ加工工場に勤務。激務の合間にも、短い夏には2歳の息子と家の向かいの川で鮭を釣り、野山へブルーベリーを摘みに行くという大自然を満喫する生活を送る。オールマイティーに釣りを楽しむ。3歳の時、釣好きの父にニジマス釣りに連れて行ってもらってから、現在まで釣りが趣味。渡米前はマダイやアジの海釣りが主体だったそうです。ダッチハーバー在住。新潟県出身。
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