SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

遡上後間もないサケのメス(左)とカラフトマス(右)。 8月に遡上するカラフトマスは、写真のように銀色の砲弾型が特徴。
We Love SalmonFishing!!
『忠類川サーモンフィッシング12年の歩み』藤本靖
10年間を経過した忠類川で見えてきたこと
 1)ウェーディング(*1)すると忠類川のサケは釣れない・・
フライフィッシングでは、良く川の中に立ち込んで釣りをします。忠類川や他の調査河川でも同様ですが生まれた川の臭いを嗅ぎ分けると言われる嗅覚の優れたサケマスは、「立ち込む事」により人の気配を敏感に感じ取り非常にナーバスになってしまいます。根掛かり(*2)を外そうと川の中に入り込むのは言語同断の行為。必要最小限のウェーディングを除き、川の中に立ち込む事は、絶対に避けたい行動です。忠類川で水の中に入り込むのは最大で「くるぶしまで」なのです。
用語解説
(*1) 水の中に入って釣りをすること。
(*2) 仕掛けが海底の障害物(根)に引っかかってしまうことです。
体験学習に訪れた中学生。忠類川のサケ釣り体験は中学生以上であれば可能。ただし人数などに制限が出る場合があります。
 2)遡上から1週間が勝負
フライロッドが限界まで曲がるファイトをサケならではのもの。
サケマスは産卵の為、河川に遡上してくる。遡上から1週間ほどが、サケ釣りにとっての勝負期間と言えます。遡上直後は、産卵の為のペアが成立していません。この為にサケマスは、非常に行動がアクティブな時期となり、盛んにルアーやフライに盛アタックして来ます。ペアが成立してからメスが産卵床(*3)を作り始めると外敵となる魚以外には中々振り向いてくれない期間となってしまいます。その後、産卵行動になりますが、この行動中も同様です。忠類川の第1管理棟と呼ばれる区間に遡上から辿り着く時間は、速い魚体で2時間。遅い魚体だと2日です。中流部に位置する第2管理棟区間へは、早いもので6時間から8時間。遅いものだと3日ほど。中流部は、エサ釣り区間も含まれています。遡上してからの時間が経つとルアーやフライでは中々釣れない事が多くなってしまいますが、エサ釣りの場合は、産卵行動中でも積極的にアタックして来る事が多くあります。この違いが10年以上経過しているにも関わらず謎の一つです。
用語解説
(*3) サケのメスが産卵するために掘る穴のこと。深さ約60cm。長さは約1m前後。
サケのサイズにもよるが、ファイト時間は5分を超える時も珍しくありません。
 3)見える魚は、釣れない・・
サケがヒットした瞬間は、流木などに引っ掛かった感じが多くあります。
流れの緩い瀬脇などにいるサケマスを無心に狙っている人を良く見かけます。初めて忠類川に来た人に多いのが特徴です。残念ながらこれらの見えている魚体の多くは、前述した「産卵中のカップル」であるケースがほとんどです。そうなるとルアー、フライから逃れようとする魚体が多く、逃げ惑ううちに偶然にフックが体に引っ掛かり通称「スレ」と呼ばれる状態になってしまいます。浅い見える場所にいるサケマスは、中々釣り難く、しっかりとフライに食いつく魚体は「瀬の流芯」つまり流れの中心にいます。この流芯を逃さない為のラインシステム(*4)とドリフト(*5)方法は、かなりの熟練を要します。また流芯のサケマスを見つける事は、困難を極め、これも同様に「鷹のような眼力」が必要となります。忠類川で流れの中の魚を見つけ出すコツは「底の石」を観察すること。また偏光サングラスは、必需品です。
以前は、見える範囲、すべてに人が居る事もありましたが、この数年はゆっくりとサケ釣りに没頭できる人数になっています。
今でも国内のサケ釣りのバイブル的な存在になっている故-西山徹さんの「川のライオン」と杉坂隆久さんの「サーモンフィッシングの夜明け」。この2本のビデオに出ているフライメソッド(*6)は、今でも忠類川の基本となっています。それをアレンジして現在のフライフィッシング・システムがあると言えるのです。この2本のビデオにヒントは、たくさん詰め込まれているので可能であれば是非一度見る事をお勧めします。
用語解説
(*4) 釣り糸を繰り出す方法、操作。
(*5) フライを流すこと。ナチュラルドリフトとはエサなり疑似餌を自然の流れに流すという意味。
(*6) フライフィッシングのテックニックや方法。
ちょっと増水中の忠類川。この笹濁り状態が、ベストコンディションでもあります。
ただし一歩間違うと増水により調査が中止となる場合も・・・
サケのファイトをなんとか堪えている状態。このままだとロッドの極限を超えてしまう場合やラインが切れる事も・・・
国内のサケ釣り河川
年々、女性の参加者も増えてきています。
本州から参加のYさん。忠類川2年目から参加の常連メンバー。 もちろん腕前も地元のメンバー並です。
「調査」と言う形で許可されているサケ釣りですが、英語に訳す場合には「ライセンス」と言う言葉を使用する必要がどうしても生じてしまいます。「調査」と言う言葉をライセンスに置き換えて忠類川の調査要綱を読み返してもらうと釣り人にとってはとても解り易いはずです。サケをしっかりとしたルールの基で釣りを楽しむと言う事を最大の目的の一つとして認識していますが、北海道の現状は、まだまだ密漁が横行し、釣りとはかけ離れた行為や状況が多く存在しています。国内のサケ釣りのパイロットケースとして誕生した忠類川を続け、多くの河川でも取り入れて行く事で、これらの状況が改善されていく事を願いたいものです。(了)
●このページの写真は「忠類川 今日の一枚」より掲載させていただきました。
藤本靖氏プロフィール
Yasushi Fujimoto
日本で初めてサケ釣りが出来るようになった北海道東部標津(しべつ)町-忠類川でそのシステム創設当初から関わり、現在も川と向き合う日々が続いている。釣りという趣味を通じて、様々な視点や人脈から環境創り、地域創りに関り続けている。
(社)北海道スポーツフィッシング協会・会長、NPO法人-南知床ヒグマ情報センター・事務局長
標津町在住 1961年生まれ。
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