鮭と食
燻製は、人類が火を使い始めた頃からの食品であり、炉ばたで乾燥させた魚や肉は、味、香り、保存性が向上することを経験し、今日の燻製法へと発展したものです。
実際の水産加工技術としてサケ、マス、ニシンなどの燻製品を製造するようになったのは、比較的近年のことです。
現在、燻製法には、冷燻法と呼ぶ貯蔵を主目的にするものと、温燻法と呼ぶ調味を主目的とするものがありますが、実際の加工では、低温燻製、中温燻製、高温燻製の3タイプが製造されています。
低温燻製(温度条件:28度以下、目的:食材の色を保つ)
中温燻製(温度条件:30度~80度、目的:一般細菌を滅させる)
高温燻製(温度条件:90度~150度、目的:食材の水分を飛ばし旨味成分を残す)
サケの燻製は、北海道では歴史が古くアイヌ人が「カラン」と称し、サケを炉ばたの上に吊るし作っていました。文献では江戸時代、松前藩によって産物として流通しはじめ、本格的な生産としては明治38年に北海道水産試験場が石狩のサケを用いて製造販売したという記録が残っています。(第3回北海道水産試験場報告、明治43年10月)
燻製の形状は、冷蔵設備の不十分な昭和30年以前はラウンド(サケの頭と内臓をとった全形)や、棒燻(背肉燻製)として生産されていましたが、昭和30年以降、冷凍設備や真空包装機の普及により、外見がよく、加工効率の高いフィレータイプ(サケの半身)の生産に移行してきました。近年は外国産などの脂肪含量の多い原料を、燻製装置を用い、燻煙の色や臭いが少なく、そして塩分の少ないソフトな燻製品が多く作られています。
(株)ニチロ(現マルハニチロホールディングス)では、大正時代に米国より燻製機械を導入し、商業ベースでの初生産を開始して以来培った技術をいまに引き継いでいます。
サケの燻製(スモークサーモン)は健康志向を反映して低塩分、高水分化の傾向にあります。また、サケの肉には機能性成分として注目されている学習能力向上、認知症予防、血栓予防に効果があるとされているDHA、EPAの多価不飽和脂肪酸や、疲労回復効果が期待されるアンセリン(エキス成分のアミノ酸)、さらには体内の酸化抑制作用やガン予防に効果があるとされるアスタキサンチン(サケ肉の色素成分)などが含まれているため、健康にいい機能性を有した食品です。
燻じょう・あんじょうを2ヶ月間繰り返し、身の内部までしっかり水分をとばした鮭の燻製が棒燻製です。うすくスライスしそのまま、あるいはワインで戻して少し柔らかくしていただきます。炒め物に使用するとまた違った味わいが楽しめます。
内出血や身割れのない新鮮な鮭を使用する。
エラ・カマ等の不要物を除去する。
鮭のうろこに逆らって塩をすりこみ(逆さ塩)腹部にも丁寧に塩をし、重ねていく。
塩分がまんべんなく回るように、鮭の裏表や上下を入れ替える「手返し」を行い2週間以上漬け込む。
この塩漬け、手返しは各2回以上行う。
流水で目的の塩分濃度になるまで塩分を除去する。
形をととのえる。
20~30℃の低温で鮭を燻す(冷燻法)。ここではナラのおが屑とナラの炭を使用している。
燻じょう
「あんじょう」とは「少し時間を置く」こと。乾燥は表面から進むが、せいぜい数ミリしか乾燥しない。寝かせることで、内部の水分が表面に滲み出す。燻じょうとあんじょうを2ヶ月間繰り返すことで鮭の内部まで乾燥させることができる。
みがくことで表面のつやを出す。
現在スモークサーモンといえば、ほとんどの場合このソフトタイプのフィレ-燻製をスライスしたものを指すようになりました。冷燻法であり、水分が多いので温度管理が重要な商品です。冷蔵・冷凍技術の発達により一般に広まるようになりました。
傷や身割れのないものを選別する。
フィレーにおろし、腹須骨を削ぎ落とす。身割れが生じないように丁寧に扱う。
調理食塩水に約20時間浸漬する。
水切りおよび風乾する。
25℃で約5時間燻煙する。ナラまたはサクラのチップを使用。
17℃で15~16時間、乾燥させる。
参考文献:
「全国水産加工品総覧」福田 裕・山澤正勝・岡崎恵美子 監修 出版:光琳
「水産物の利用」―原料から加工・調理まで― 山中英明・田中宗彦 共著 成山堂書店平成11年4月発行