SALMON MUSEUM サーモンミュージアム


シアトルからまだ雪が残るロッキー山脈をプロペラ機で越えてモンタナ州ボーズマンに入った。
We Love SalmonFishing!!
世界の鮭釣り事情アメリカ編vol.1 トラウトアンドキング海外釣り専門旅行会社 夷谷元宏
アメリカ・ヘンリーズフォーク フライフィッシングで狙うレインボートラウト
美しいフレッシュな魚体を持つレインボートラウト。大きさは惜しくも19.5インチであった。
レインボートラウト(ニジマス)は北米原産の鮭鱒の仲間で釣りの対象魚として人気が高い。その姿は、緑色の背中に赤い帯が体の横に走っていて、虹のように美しいことからその名前がつけられている。貪欲にエサを食べ、ハリにかかると力強さとスピードを兼ね備えた引きで我々釣り人を楽しませてくれる。今回我々5名は、そのレインボートラウトをフライフィッシングで狙うために、アメリカアイダホ州ヘンリーズフォークを7月の中旬に訪れた。
この日は花咲く牧場のトレイルを歩いて川までアクセスした。
フライフィッシングとは、西洋式毛ばり釣りで、イギリスで発祥してアメリカで発展した独特な釣りである。フライラインという特別な太い糸を使い、その糸をムチのようにシナらせ、小さくて軽い毛ばりを投げ、川に流し、あたかも本物の虫が川を流れるように見せて魚を食い付かせる。このフライを投げるテクニックもこの釣りの非常に面白い要素である。フライ(毛ばり)の種類も千差万別あり、その選択によっても釣果が大きく左右される。季節や天候、気温、水温、水量などから、広くて深い川の中のどこに魚がいて、どういう種類のエサを食べているかを推測し、それがピタリと一致しないと魚は釣れてくれない。自然のパズルを読み解き、自然と一体になることができるスポーツなのである。
この日はボートで川を下り流ら目的の“ライズ”を探した。
今回訪れたヘンリーズフォークは、対岸まで50mから100mもありそうな幅の広い浅い川でゆったりと流れている。川底には水草が豊富に茂り、その水草がたくさんの水生昆虫を育み、その虫達が大きな魚を育む。数あるアメリカの川のなかでも大物レインボートラウトが釣れることで有名な川である。がしかし、その大物を釣り上げることが非常に難しい川としても有名なのである。その理由は、先に述べたことすべてが要因となっている。ひとつはエサとなる水生昆虫が多すぎるために、そのなかにフライを流しても魚に見つけられ難い。せっかく見つけられたとしても、川の流れが平坦で遅いため、フライがニセ物だと見破られやすい。また、何年も生きている大きな魚は釣り人や捕食者の脅威から逃れる知恵が身についていて非常に賢い。やっとハリにかけられたとしてもその強靭な力で茂る水草の中に逃げ込んでしまう。そんな強敵にあえて挑戦して大物を釣り上げようとここにはたくさんのフライフィッシャーマンが訪れる。そんな聖地とも呼ばれている場所で、20インチ(約50センチ)のレインボートラウトを釣り上げることがひとつのステイタスとなっていて誰もが狙っているのだが、果たして、我々の滞在中にその目標は達成することができるのだろうか?
そのトレイルを何キロか歩くと、目の前に雄大な流れが広がった。
成田からシアトルを経てモンタナ州のボーズマン空港に降り、ボーズマンから陸路2時間でヘンリーズフォークの畔の町、ラストチャンスに着いた。この辺り、モンタナ、アイダホ、ワイオミングの州境周辺はロッキー山脈を縫ってたくさんの川が流れていてそこには多くの鱒が住み、フラフィッシングのメッカとなっている。映画「リバーランズスルーイット」の世界そのものだ。
これが“ライズリング”魚が水面を流れる虫を食べたときに起こる波紋である。これを見ると釣り人は興奮する。
ロッジにチェックインして休憩する間もなく早々に釣りの用意をし、釣具店でフィッシングライセンスを買い、店員に状況を聞いた。運良く何種類かのカゲロウがたくさん羽化していて、魚達は盛んにそれを食べているとのことだ。早速川に行ってみると、流れの所々で魚達が水面に頭を出して流れる虫を食べているのを見ることができた。この動作はライズと呼ばれ、これによって広がる水面の波紋はライズリングと呼ばれる。まさに我々が探し求める、魚が今そこに居てエサを食べている状態である。非常に興奮させられるシーンなのである。早速そのライズリングにゆっくりと近づいていって、流れる5mmほどのカゲロウを模したフライを流すと、すぐさまそのフライに魚は飛びついてきた。我々グループの何人かは狙うレインボートラウトを釣り上げることができたが、どの魚も30センチ以下と小さいようだ。そこで、夕方薄暗くなった頃、釣具店で聞いた大物がいるというポイントへ移動した。そこでは2cmもある大きなカゲロウが空を覆いつくすほど飛んでいて、水面でも羽を帆のように立てて流れていた。慎重に川面に目を凝らすと・・・いた、ライズだ。水面から巨大な頭を出して虫を食べている。大物だ。竿を握る手が震えるような主に唯一の女性参加者であるKさんがトライすることになった。魚に悟られないように下流側に立ち込み、上流からたくさん流れてくるカゲロウに紛れさせてフライを打ち込んだ。果たして、数等目に魚はユラッと水面を揺らしながらフライを吸い込んだ。がしかし、すぐに糸を切られてしまった。魚は力強く、明らかに20インチは超えていた。
約2センチほどの茶色い大きなカゲロウがたくさん羽化していた。例年にはなく珍しいことであった。
翌日、Kさんは前日の悔しさを胸に、フィッシングガイドとボートに乗っての釣りとなった。ボートで数キロ下りながらライズを探してはトライする、ハンティングのような、興奮させられる釣りである。この日は朝から様々な場所で大物のライズを見ることができた。慎重にフライを投げ、魚がエサを食べている流れの筋にできるだけナチュラルに流し込んで、その一匹になんとか食わせることができた。ハリ掛かりしたまま暴れて水中を走り回った末、ガイドの網にやっと入った魚は、銀色の魚体にピンク色の帯が美しいオスであった。サイズはなんと、19.5インチ。惜しい!ここまで来たら今回の旅で栄光の20インチを射止めるしかない!全員でKさんを応援しようということになった。
この日もすぐにKさんが掛けた。魚はライズをしながらこちらにやって来てフライを咥えた。
Kさんが大物を掛けてファイトの真っ最中
次の日は牧場のなかのトレイルを何キロか歩いて川までアクセスした。ここは今までの場所より川幅が広く流れが遅い。その川の真ん中あたりで大物のライズが何箇所か見られるが、魚へのアプローチが一段と難しそうだ。それぞれのライズを目指して、みんなで散らばっていった。ここでついに、Kさんは偉業を成し遂げた。普通ならライズに近づいていくと、そのライズも遠くに離れていくのだが、彼女曰く、「私が立ちこむとライズが近づいてくるんです。」の言葉通り、遠くでライズを繰り返していた魚がユラ~とだんだんこちらにやってきて、なんと3投目にあっさりと大物を仕留めてしまった。ワニのように大きく裂けた口を持つオスで、大きさはなんと21インチであった。
ワニのように口が裂けた厳ついオス。21インチ(53センチ)の大物。
結局我々5名のヘンリーズフォークでの釣果はこのKさんの2匹のみであった。私もみんなもそれぞれが大物を掛け損なったり、掛けたのだが糸を切られたりと、ここでの釣りの難しさを実感させられた。フライフィッシングは簡単ではなく、釣れる魚の数というのは決して多くはないのだが、自然のなかに自身を溶け込ませるスタイルのこの釣りには面白い要素が詰まっていて、チャレンジし甲斐があり、また、いちどでも大物を掛けたらその感覚を一生忘れることができない、アブない麻薬のような釣りなのである。最終日の夕食の席で、Kさんは今回の魚達との再会のため、残る私達は逃した大物にリベンジのために来年の再訪を誓いながら、巨大なアメリカンステーキにカブりついた。
巨大なアメリカンステーキを頬張りながら、みんなで来年の再訪を誓った。
夷谷元宏 プロフィール
Ebisudani Motohiro
1996年-97年ニュージーランドに1年間フライフィッシング目的で滞在し、各地を探釣する。釣行記を雑誌に投稿。
1998年帰国後、ニュージーランドソルトウォーターフライフィッシング国際トーナメントに日本チームとして出場。以降3年連続出場。
同年トラウトアンドキングフィッシングツアーを立ち上げ、ニュージーランドヘ釣り人を案内。以降、他のデスティネーションにも自ら足を伸ばし、ニュージーランドだけでなく、アメリカ、カナダ、オーストラリア、メキシコ、コスタリカ他各地へ送客。現在に至る。
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