提供元:愛媛大学南予水産研究センター

幻の魚を口にできる日も近い?!

媛スマ誕生物語

2023.1.30

これから先もずっと、おいしい魚を食べ続けたいと望むなら、天然資源の利用を最小限にとどめる“完全養殖”は欠かせません(詳しくはこちらの記事へ)。マルハニチロが2010年、民間企業として初めて完全養殖に成功した太平洋クロマグロの出荷量は、現在年間500トン、1万尾に迫ります。
そんな中、一流和食店の料理人から「マグロとカツオの良いとこ取り」と評される魚があるのをご存じですか? 愛媛県が完全養殖で生産・出荷している「媛スマ(ひめスマ)」です。天然ものは漁獲量が非常に少なく、「幻」とも言われているスマ。養殖を成功させるまでには、どんなドラマがあったのでしょう? 媛スマの誕生秘話に迫ります。(監修:愛媛大学南予水産研究センター 後藤理恵教授)

「幻の魚」を
次世代の養殖魚へ

もともと、そのおいしさを知っているのは、地元の漁師や港で働くごくわずかな人たちだけでした。「カツオ一本釣りで混獲された」「クロマグロの幼魚を囲った養殖場の生け簀に紛れ込んだ」。そんなふうに時折、思いがけず水揚げされる魚でした。50~60センチの引き締まった紡錘形に、サバ科特有の縞模様、そして胸のあたりにあるお灸の跡のような黒斑点。そんな見た目から、この地域では「ヤイト(灸)」とも呼ばれるスマは、全身に脂がのり、それでいてさっぱりとしてクセがなく、「本マグロにも匹敵するおいしさ」、「全身トロ(背は中トロ、腹は大トロ)」と、人々の舌を唸らせてきました。

提供元:愛媛大学南予水産研究センター

スマは、日本の南西を北限に、熱帯や亜熱帯域の太平洋沿岸に広く生息する魚です。小さな群れで泳いでいるため、まとまって釣れることがない「幻の魚」と言われています。生態はなぞに包まれ、これまで飼育や養殖の実績もほとんどありませんでした。

マダイをはじめ養殖生産量で日本一を誇る“養殖王国”の愛媛県が、そんな「幻の魚」に目をつけたのには、おいしさ以外にもいくつか理由がありました。
第一に成長が早いこと。他の魚では2~3年かかるところ、スマは約7カ月で出荷サイズになります。そのため時勢に合わせ、需要を見越した生産スケジュールが組みやすいのです。また、地球温暖化で海水温の上昇が進んでも、愛媛沖で育てやすいこと。そして生け簀で飼いやすく、飲食店でも丸々一尾使いやすい適度な大きさであることも決め手になりました。

提供元:愛媛大学南予水産研究センター

よりおいしいものを、
安定して育てる

様々な試行錯誤が実を結び、2016年には完全養殖に成功。
次なるステージとして取り組んだのが、より良い品質のものを安定的に生産する技術「スマ次世代育種システム」の開発でした。スマは同じように育てても、大きさや脂ののりなど、個体差が大きく出る魚です。成長のスピードや低温への耐性なども違います。

そこで、すべてのスマにタグをつけ、筋肉の硬さ、脂のり、アミノ酸量、内臓の重量など150もの項目を計測し、モニタリング。「成長が早い」、「低温に強い」、「脂がのっている」など、理想的な形質を持つスマを選抜し、育種を試みています。
天然の魚は時期によって大きさや味が異なりますが、この方法ならばいつでもおいしいスマを安定して生産できます。

またスマを育てるためには、成長過程で大量の魚(生餌)を必要とします。世界的に海洋資源の保護が叫ばれる中、人工飼料への切り替えはクリアすべき課題の一つに挙げられています。しかしスマは他の養殖魚と比べて特に生魚を好む傾向があり、消化管が短いため人工飼料の消化に適さない魚でもあります。スマが好む人工飼料の開発と合わせて、次世代育種システムで消化機能の優れたスマを増やすことができれば、環境にやさしい養殖も実現できるのです。

こうして最先端の養殖技術を駆使して育てられている媛スマは、身を傷つけないよう一本釣りで水揚げし、釣ってすぐに活〆、血抜き、冷やし込みを行うことで、鮮度を維持したまま消費者へ届けられています。中でも最高ランクのものは「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」として、クロマグロと同等の価格で販売され、高い評価を得ています。
今後、さらに生産量が増えていけば、媛スマを全国の飲食店で味わえる日も来るかもしれません。

提供元:愛媛大学南予水産研究センター

魚の脂を逃さないのがコツ

魚の脂には健康に生きるために必要と言われているDHAやEPAが多く含まれています。体内でほとんど作られない必須脂肪酸で、食事から摂取する必要がありますが、気をつけたいのは、熱を加えると脂肪とともにDHAが逃げ出してしまうということ。焼いたり煮たりすると生のときの約80%、天ぷらのような揚げ物では約50%に減ってしまいます。ホイル焼きにするなど、脂をなるべく逃さないような工夫が必要です。

もっと詳しく知りたい人はコチラ
▶︎(https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article61/

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