魚選びのニュースタンダード!

サステナブルに進化する
養殖魚の最前線

2022.10.31

少し前まで、天然の魚より格下に見られていた養殖魚。しかし最近では、あえて養殖魚を選ぶという人も増えています。おいしくなった? 環境にやさしい!? 進化が止まらない養殖の最前線をご紹介します。(監修:愛媛大学南予水産研究センター 後藤理恵教授)

“完全養殖”が世界の
ニュースタンダードに

『養殖』と聞いて、どんな風景を思い浮かべますか?
「生け簀に囲い、エサを与えて魚を育てる」、多くの人はそんなイメージではないでしょうか。これは、半分正解!ですが、養殖の一側面でしかありません。
最前線の現場では、魚を世話するのと同じくらい、データや顕微鏡に向き合うのも大事な仕事。より優れた養殖技術の開発のため、日々研究と検証が繰り返されています。

今、特に進化が著しいのが“完全養殖”の世界です。完全養殖とは、人工ふ化した稚魚を親魚に育て、その卵を採って育てるサイクルを繰り返す方法。海の魚が減り続けている今、稚魚を捕まえて育てる『畜養』と異なり、天然の個体数を減らさずにすむ完全養殖は、サステナブルな養殖として期待されています。
今はまだ、多くの現場で生魚がエサとして使われていますが、魚種によっては100%人工飼料で育てることもできます。そうなれば、天然資源の利用は最小限にとどめて生産することが可能になります。

人工ふ化したマグロの稚魚。

乱獲のため資源量が懸念され、国際的に漁獲規制が進む太平洋クロマグロは、2002年に日本が世界に先駆けて完全養殖に成功し、同じく絶滅危惧種に指定されているニホンウナギも、2010年に完全養殖を達成しています。
マルハニチロは2010年に民間企業として初めて太平洋クロマグロの完全養殖に成功し、徐々に流通量が増え、市場に出回るようになりました。

今年、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、現在養殖されているクロマグロ、ニホンウナギ、ブリ、カンパチのすべてを2050年までに完全養殖にすることを目標に掲げています。世界的にも今後さらに人口増加が進み、食糧不足が深刻化すると言われています。天然の魚を守りつつ必要な供給量を確保する手段として、完全養殖がさらに拡がっていくことが予想されています。

自然に囲まれた奄美大島にある完全養殖クロマグロの養殖場。マルハニチロが足かけ約30年で商業出荷へと漕ぎつけた完全養殖クロマグロの出荷量は、現在年間500トン、1万尾に迫ります。

おいしくて、育てやすい親魚。
海を汚さないエサ

完全養殖の良いところは、それだけではありません。天然の魚は、たくさん獲れる時期もあれば、全く獲れない時期もあります。その度に価格が大きく変動し、漁師の収入は不安定になりがちです。季節や個体によって、大きさや味にもバラつきがあります。
一方、完全養殖ならば、「脂がのっている」、「病気に強い」、「成長が早い」など優れた性質を持つ親魚だけを選抜し採卵することで(=育種)、管理がしやすく、一定以上のおいしさの魚を安定して生産することができます。
かつては高級魚として扱われてきたマダイやヒラメはその代表格です。完全養殖が普及したことで、一年を通じ、回転寿司などで手頃な価格で食べられるようになりました。

エサをコントロールすることで、付加価値をつけることもできます。たとえば、脳を活性化する栄養素として知られるDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含んだエサを与えれば、DHAが豊富な魚に育てることができますし、みかんの果皮やオイルを添加したエサを与えれば、臭みがなく、ほのかに柑橘の香りがする魚になります(愛媛の「みかん鯛」や「みかんブリ」)。

また、フグの毒やアニサキスなどの寄生虫はエサ由来のため、養殖により食べさせる飼料を管理することで、そのリスクを回避することもできます。
食べ残しによる水質汚染が起きないよう、水に溶けにくい人工飼料の開発や、AIを駆使した自動給餌器の遠隔操作による適量給餌などの実用化も進んでいます。

クロマグロは一尾のメスを複数のオスが追いかけながら、交尾・産卵活動を行います。そうして産まれる卵は1日に数千万粒以上。海面に浮かんできた卵を網ですくい集め、隣接するふ化場へと運びます。

次世代の魚食文化を守る
最後の砦

生産者にも、消費者にも、環境にもたくさんのメリットがある完全養殖ですが、決して簡単な技術ではありません。卵からかえり成長して産卵するまで、どんな環境で、どんなエサを食べて育つのか、魚の生態を知らなければなりません。せっかくふ化してもすぐに死んでしまったり、狭い生け簀に囲うことで衝突や共食いといった予期せぬ事態も起こります。たとえ完全養殖の技術が達成されても、生産性の高いより良い技術へと進化していかなければ、産業としては成立しません。

それでもなお、様々な魚種で完全養殖への取り組みが進んでいるのは、これから先もずっと、おいしい魚を食べ続けたいと多くの人が望んでいるから。そしてその未来はもう、完全養殖抜きには実現し得ないのです。
母なる海が育てた魚と同じくらい、人が育てた魚も、なんだか尊いものに思えてきませんか?

世界で魚の消費量が増えている!

日本では「魚食離れ」も囁かれますが、世界における魚介類の一人当たりの年間消費量は年々増加。1950年に世界で約2000万トンだった魚介類総生産量は、1990年に1億トンを突破し、2018年は1億7900万トンとなりました。2030年にはこれが2億トンとなる予想です。高まる需要に対し、世界の漁獲量における養殖の割合は2020年で全体の46%を占めるまでになっています。

もっと詳しく知りたい人はコチラ
▶︎(https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article85/

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