
淡水から海水へ。海水からまた淡水へ。一生のあいだに3度も生活の場を変えるサケ。その体には他の魚類にはないエネルギーと環境適応力が秘められている。そして、生涯を彩る「回遊」「母川回帰」「一回繁殖」という劇的なドラマは、私たちに大自然の神秘を感じさせ、感動を与えてくれる。
母川回帰
卵を産むために母なる川に戻ってくることを「母川回帰」という。約98%のサケが正確に自分の生まれ故郷に辿り着くが、それを可能にするメカニズムは明らかにされていない。しかし、近年の研究から、稚魚のある時期に育った川の匂いを記憶(母川銘記)することがわかった(嗅覚刷り込み説)。さらに、それ以外の方法と合わせて母川回帰を成し遂げている説が有力とされている。
母川特有の匂いの記憶を頼りに回帰する
太陽の位置や高度と体内時計から自分の位置を推定する
体内にある磁性体と地磁気から方位を決定する
回遊ルート
サケは海に降りたあとに外洋を回遊し、プランクトンやオキアミを餌に約2,000倍に成長したあと、産卵のために母川回帰する。その間の回遊ルートは、謎のベールに包まれたままであり、まだ全貌はわかっていない。
一定の海流にのって、または逆らって移動する
均一条件をもつ水塊にのって移動し回遊する
適水温と餌を求めて移動し回遊する
一回産卵
母川回帰の目的は産卵である。一般的なサケは、一度でも放卵・放精すると、息絶えてしまう。遡上したサケは雌雄がペアを組み、雌は自分の体と尻びれで水底の砂利をはね飛ばし、体長の2~3倍の産卵床を掘る。雄は他の雄が近づくと争い、外敵から自分のパートナーを守る。産卵床が完成すると雌雄が寄り添って放卵・放精する。ひとつの産卵床に抱卵数の1/5~1/3を産み落としたあと、雌が尾びれで砂利をかけ、産卵床を保護する。この行動を3~5回繰り返したあと、サケはその生涯の幕を閉じる。

産卵床が完成すると雌雄は寄り添い放卵・放精をする。
サケの一生と食物連鎖
川で生まれたサケが、豊富な餌を得られる海で大きく育ち、再び川に戻って上流で息絶えると、その死骸は森の昆虫や動植物の栄養分になる。この循環がサケが遡上する森を豊かにしている。サケの一生は地球の大きなエコシステムの一部を担っている。

