
海外最新トピック from Spain
三ツ星シェフが考案した
「塩に触れない」
魚の塩蔵テクニック
今、世界ではどんなことが話題になっている?
現地在住リポーターが、これからの食と未来の暮らしのヒントとなるような
最新トピックをお届けします。今回はスペインからリポート!
伝統的な魚の保存法から
現代人の嗜好に合わせた塩蔵へ
三方を海に囲まれているスペインでは、古くはローマ時代から魚を保存する方法を習得してきました。「ガルム」と呼ばれる魚醤を作っていた遺跡も残っているほどです。
現在よく出回っている魚の保存食品はアンチョビを始め、タラの塩漬けやニシンの塩漬けが日常の食卓を飾っています。マグロの赤身を塩漬けして天日干しした「モハマ」や、日本のからすみ同様、ボラの卵を塩漬けして乾燥させた「ウエバス」は高級品。スペインの塩漬けはたくさん塩を使い、期間も長く漬けたものが一般的です。
一方で、この15年ほどで鮨やセビチェなど魚の生食も定着し、フレッシュさを残した魚介の味わいも好まれるようになりました。
90年代後半から伝統料理を革新し、前衛料理や分子料理※と呼ばれるジャンルを確立してきたスペインですが、レストラン業界では料理と科学の調査研究が今でも盛んです。この国の料理界で“塩蔵”を突き詰めているのが、シェフのキケ・ダ・コスタさん。地中海沿岸の小さな街、デニアでミシュラン三ツ星のレストランを営む彼は、2018年より伝統的な塩蔵を見直し、現代的な手法での塩蔵を生み出しました。

シェフのキケ・ダ・コスタさん ©quiquedacosta
熟成してもカチカチに
乾いていない
しっとり、クリーミーな
味わい
塩蔵は塩で素材の水分を抜くことで腐敗を防ぎますが、当然素材は塩辛くなります。塩抜きの作業が必要となり、味わいも変わってしまいます。キケさんは海産物の素材の味わいをそのままに塩蔵できないかという素朴な疑問から出発し、「塩のトンネル」なるものを発明しました。
発明した装置は冷蔵庫のようなものですが、塩を含んだ冷風が当たる仕組みになっています。この「塩のトンネル」に、塩水に一定時間漬けておいたマグロやタコ、魚卵などの素材を入れて寝かせます。素材は庫内の網の上に置かれ、塩と直接触れぬまま、空気中の塩分で非常にゆっくりと水分を失ってゆきます。

マルカの魚卵の塩蔵 ©quiquedacosta
タラの一種であるマルカという魚の卵に、軽く塩を振ってから3℃に設定した「塩のトンネル」で12日間塩蔵すると、内部が絶妙に水分を残したクリーム状となり、すくってパンに塗ると絶品。15kgのマグロの塊をこの方法で塩蔵すると、肉の熟成と同様3カ月でしっとりとしたマグロの生ハムが出来上がります。

マグロの生ハム ©quiquedacosta
海を目の前にするデニアの彼の食卓では、もちろん新鮮な魚介に欠くことはありませんが、古くから伝わる塩蔵を現代解釈し、コースの中でその創造性をアピールする一品は、キケの十八番として国内外の食通に驚きをもたらしています。
※ 前衛料理や分子料理
ヌーベル・キュイジーヌの流れを引き、スペイン・バスク州で始まった創意あふれる料理が2000年代「前衛料理」として確立。調理過程における食材の変化を化学的、物理的に分析し、調理することから分子料理とも呼ばれる
◎キケ・ダ・コスタ
https://www.quiquedacosta.es/

小林由季(こばやし・ゆき)
1995年よりスペイン在住。ライター、TV番組やイベントコーディネーター、ビジネス通訳、同時通訳もこなすスペインよろず屋。スペイン料理学会マニア、生鮮市場マニアを自負。いろいろな観点からスペインの食のバリューチェーンの観察を続ける。
ツナ缶のツナってどんな魚?
実はマグロだけのことではなく、ツナ(tuna)はスズキ目サバ科マグロ属に分類される魚の総称です。欧米ではマグロと用途が似ていることからカツオも同じくtunaと呼ぶようになったそうです。日本でも、「マグロ類=ツナ」とまとめて呼んでいるので、ツナ缶の原料にはマグロとカツオ、両方が存在します。
もっと詳しく知りたい人はコチラ
▶︎(https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article59/)