
海外最新トピック from Italy
イタリアの海を荒らす
“嫌われ者”を食卓へ
おいしいをキーワードに
活動する女性起業家たち
今、世界ではどんなことが話題になっている?
現地在住リポーターが、これからの食と未来の暮らしのヒントとなるような
最新トピックをお届けします。今回はイタリアからリポート!
海水温の上昇で魚が北上
南からやってきた青い新参者とは?
気温は高いけれど湿度が低く、日陰にいれば過ごしやすかった中部イタリアの夏も、ここ数年は35℃を超える危険な暑さを感じるように。温暖化の影響は夏の旱魃(かんばつ)を引き起こし、水不足でオリーブの実がしわしわに干からびてしまうなど、農作物に大打撃を与えています。
さらに深刻なのが、海水温が上がることで魚介類の生態系が変化していること。地中海はもともと温かい海でしたが一段と水温が上がり、本来生息していた魚が水温の低い海域へと北上して、漁師たちは魚を求めより遠くへ船を走らせるようになりました。遠方に出るため船の燃料費がかさみ、しかも漁獲量は落ちているため、魚介類は高級品となっています。
問題はそれだけではありません。海水温の上昇は、本来いなかった南洋の種を誘い込む要因となり、それが在来種を駆逐してしまうという現象が頻発しています。その象徴的な例が、アメリカ原産種と言われる青いワタリガニ「グランキオ・ブルー」による被害です。

アメリカ原産とされる外来種「グランキオ・ブルー」、その名の通り鮮やかな青色が特徴の小型のカニ。そのハサミで漁網を破ってしまうため、漁師にとってはとんでもない厄介者。©Mariscadoras-Blueat
手のひらサイズのこのカニは、イタリアの東側アドリア海で最初の被害をもたらしました。ヴェネツィアよりも少し南、イタリア最長のポー川がアドリア海に注ぎ込む浅瀬は、昔からウナギやアサリなどの養殖を含め漁業が盛んな地域ですが、2020~22年の間に増殖率が2000%を超えたグランキオ・ブルーが、養殖のアサリを食い荒らすように。その結果、アサリの収量は60%近く減少したという報告が上がっています。
おいしく食べて解決!
様々なバックグラウンドを
もつ女性5人が集結
よく言えば鮮やかな、しかし食欲を誘うとは言いがたい青色のこのカニを、“厄介者”として嫌うのではなく、新たなフェーズに引き上げようと提案するのが、「マリスカドラス ブルーイート」。アドリア海沿岸の街、リミニを拠点に女性5人が立ち上げたスタートアップ企業で、“持続可能な魚屋”を掲げ、海洋資源を守るためのビジネスを立ち上げました。
マリスカドラスとはスペイン語で、かつてガリシア地方の漁業分野で認められようと戦った女性たちのこと。

イタリア最長のポー川がアドリア海に注ぐ河口は三角州で、昔から漁業が盛ん。地元の漁師と「マリスカドラス ブルーイート」のメンバーは問題解決のための協議を重ねてきた。©Mariscadoras-Blueat
メンバーは海洋生物学者、マーケティング専門家、料理研究家など、それぞれが得意分野を生かし、グランキオ・ブルーを使った食品やレシピを開発。マイナスをプラスに変えようというわけです。パスタ用のソースなどの加工品は、スーパーマーケットなどに卸し、ホテルや飲食店には冷凍のカニの身を主に販売。また、アメリカや韓国への輸出もスタートするなど、じわじわと業績を上げています。



スーパーで販売している製品は、グランキオ・ブルーの身で作ったパスタソース、ポルペッテ(フライ)、クリームソースなど。1パック3.5〜4ユーロ。©Mariscadoras-Blueat
漁業界はグランキオ・ブルーへの対策を政府に訴え続け、ようやく2024年7月末に緊急対策費の予算が認められました。しかし、ただ撲滅をめざすだけでなく、持続可能な漁業を探る「マリスカドラス ブルーイート」のような活動が広がることが、未来をより明るくしてくれるのではないでしょうか。

混獲されたグランキオ・ブルーはスーパーでも売られているが、食べ方がわからないと敬遠されがちだ。「マリスカドラス ブルーイート」ではホームページやSNSでレシピを発信。
◎Mariscadoras-Blueat
https://www.blueat.eu/

池田愛美(いけだ・まなみ)
出版社勤務を経て1998年よりイタリア・フィレンツェ在住。食を中心に取材活動に従事。ONAOO(イタリアオリーブオイルテイスター協会)所属プロフェッショナルオリーブオイルテイスター。パネットーネ(イタリアの伝統的な発酵菓子)の日本での普及促進を目的とする団体「パネットーネ・ソサエティ」の設立メンバー。
アサリは美味しいだけではなく、
海の環境保護にも役立つ
「漁る(あさる)」ようにたくさん採れることから、この名が付いたとも言われるアサリ。餌を食べる過程がフィルターを使ったろ過器と同じ働きをするので、水質浄化にも役立っています。ところが近年アサリの漁獲量は減少傾向にあります。それはいったいなぜなのでしょうか?
もっと詳しく知りたい人はコチラ
▶︎(https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article35/)