日本のおいしい魚を巡る
お魚ツーリズム03
11月は「ととけん」も開催!
地魚ワンダーランド・
大分県佐伯市へ
日本を旅する楽しみの一つが、その土地でしか出会えない魚料理であることは間違いありません。知名度が低く流通にのりにくい魚は、新鮮なまま地元でおいしく消費されています。
日本各地を巡り魚食文化を調査する「日本さかな検定協会」代表理事の尾山雅一さんが、
忘れられないローカルな魚料理をご紹介。知られざる魚食文化を体験する旅へいざないます。
尾山雅一(おやま・まさかず)さん
日本さかな検定協会 代表理事。山口県宇部市出身。早稲田大学日本文学科卒後、広告会社に入社。2009年に日本さかな検定協会を社内起業。出題・解説や副読本のコンテンツ執筆のため全国各地の漁港や居酒屋を行脚し取材。魚食文化の発信をライフワークとする。
大分県の7割もの
漁業生産量を誇るお魚王国
佐伯(さいき)市ってご存知ですか? 大分県の南端に位置し、九州一の面積を誇る市です。四国の愛媛県との間に広がる海は豊後水道。太平洋の黒潮の暖流と瀬戸内海の冷たい海水が混ざりあう、全国屈指の好漁場です。漁業生産量は年間約2.5万トン、大分県全体の約7割もあるんですよ!
地図を見るとわかる通り佐伯湾の周辺はリアス式海岸で、海岸線の総延長はなんと270km! この地形のおかげで波が穏やかなため養殖も盛んで、漁業生産量の約50%が養殖魚です。
中でもヒラメの養殖生産量は日本一! 特産のカボス果汁を加えたエサで育てた「かぼすヒラメ」もブランドです。ヒラメはヒラメ小屋という海辺の平屋での陸上養殖が伝統で、近年はトラフグの陸上養殖も盛ん。「マルハニチロAQUA※」さんの上浦漁場ではブリも養殖されていますね。
初対面も続々、
豊富な地魚バリエーション
佐伯の海には太平洋と瀬戸内海の両方の魚がいるため350種以上もの魚が獲れます。魚種の多さは全国でもトップクラス! まき網、定置網、一本釣り、潜水など漁法も多彩です。多数の浦が連なり、それぞれの環境に適した漁法が採られてきたからこその多様性で、日本の漁業が産業ではなく生業(なりわい)だったことを実感しますね。
地魚を楽しむならぜひお寿司を。地魚のネタを提供しようと市内の複数の寿司店で「佐伯寿司海道」を結成しています。
お魚自慢の居酒屋さんもおすすめ。そういうお店のお品書きを見ると、地魚の豊富さがよくわかります。例えばこんなふう。
「メジナ」は食用魚としては知名度は低いですが、磯釣りの代表魚で釣り人には大人気。夏と冬とで味が変わるんですよ。夏は雑食で磯臭い。冬になると海藻しか食べないベジタリアンになっちゃう。これが透明感のある白身魚でおいしいんです!
呼び名にも地方色が表れますね。「ほご」はカサゴ、「ぜんご」はコアジ、「せい」はカメノテ。「ぱっちんえび」は濃厚な味のウチワエビ、「ひおうぎ貝」はカラフルな二枚貝。いずれも佐伯の特産です。
おみやげにもぴったり!
魚を使った郷土料理
「ごまだしうどん」は佐伯市のソウルフード。「ごまだし」はエソというこの地でよく獲れる小骨の多い魚を活用した保存食です。エソなどの白身魚を焼きほぐし、ごまや醤油などを加えてペースト状にしたもの。ご飯や麺類、豆腐などに合わせると格段においしくなります。
「あつめし」は大分でおなじみの「りゅうきゅう」と同様、漁師飯がルーツ。刺身を醤油やみりんなどの甘辛タレに漬け込んでご飯に載せたもので、佐伯市の「あつめし」は名産のブリを使うのが定番。「あつめしのタレ」も市販されていて、私も自宅に常備しています。白身の刺身を漬け込み、ねぎとごま、もみ海苔を載せて食べると最高ですよ!
知る人ぞ知る、
佐伯市の
豊かな魚食文化を体験しよう
佐伯市は自然も歴史も奥深く、訪れるたびに発見がある街。もっと知られるべきだと思っています。
佐伯市では、隣接する宮崎県延岡市とともに近年、美食の地・スペインのバスク地方をモデルに「東九州バスク化構想」が進行中。アクセスに時間がかかるからこそ滞在して食べ歩きしてもらおうと食の魅力を発信しています。佐伯市も飲み屋街が充実し、寿司店に加えフレンチやイタリアンも増加中なんですよ。
日本さかな検定(ととけん)は現在オンライン受検が主ですが、昨年に続き今年11月4日(月・休)の検定も全国唯一のリアル会場を佐伯市で実施します。特に好評なのが受検者限定のアクティビティ! 佐伯市の魚スポットを巡るツアーや、ブランド魚の試食ができる前夜祭も開催します。
秋冬の魚もおいしくなる季節、ととけんをきっかけに佐伯市を訪れ、この地の魚食の豊かさを感じてほしいですね。