疑似血液脳関門モデルを利用した脳内へのDHAの蓄積のメカニズム
血液脳関門は、アストロサイト(星状細胞)と血管内皮細胞という異なる細胞で構成されています。両者は、相互に補完しながら脳に必要な物質だけを取り込む関所として機能しています。これら 2種類の細胞で構成される疑似血液脳関門モデルを試験管内で作成することができたため、関門のモデルを使って脳内にDHAが蓄積するメカニズムを探りました。
血液脳関門を構成するアストロサイト(星状細胞)による DHAの合成と代謝
血液脳関門を構成する細胞が、関所として働くだけでなくDHAを合成している可能性が示唆されるようになりました。そのため、どのタイプの細胞がDHAを合成しているかを調べました。本研究では、脂肪酸の放射ラベル体を使って、DHAになる過程やその後を追跡しました。その結果、アストロサイトの中で 鎖長延長と不飽和化が行われDHAが合成されていました。このDHAがアストロサイトから放出され、神経細胞に取りこまれることがわかりました。
DHAの脳内への取込みに関わる仕組み(転送因子)
血液脳関門を脂質が通過するメカニズムは、特異性が低い受動拡散や種々の受容体を介しているケースが考えられてきました。本論文は、血液脳関門に存在するMfsd2aというオーファン(役割や由来が解明されていない)転送因子が、DHAの脳への特異的な取込みに関わっているという驚くべき可能性を報告しています。DHAが脳に著量蓄積するメカニズムのひとつ、と考えられます。
脳内に取込まれるDHAの速度
脳内に多く含まれている DHAがどのように運ばれるかのメカニズムを探索しました。DHAを脳内に潅流させるモデルマウスを使って、血中の DHAが脳内へ移行する速度を EPAと比較しました。
脳内にDHAがたくさんある理由
脳に著量存在するDHAが脳に蓄積するメカニズムと作用について総合的に解説されています。DHAが結合したリン脂質を脳に取込む転送因子 MSFD 2Aについてと、注意欠陥多動性障害 (ADHD)、自閉症や認知症のリスクと DHAの関係が述べられています。
脳内で減少するEPA
EPAは血液脳関門で DHAに変換され、また脳室内に EPAを投与するとその一部が、β酸化によってエネルギーに変えられると調べられています。本論文は、脳室内に入れられた EPAの放射ラベル体が急激に減少する速さを測り、一方、 DHAのそれは緩慢で、両者は 6~9倍の違いがある、と述べています。
DHAによるニューロンの分化誘導の促進
DHA の持つ最大の特徴は、『記憶をサポート』することです。本論文では、DHA が記憶を改善するメカニズムとして神経幹細胞からニューロンへの分化誘導を促進することが示されています。
中枢関連疾患を抱えた脳への影響
DHAは、健常者の脳だけでなく、疾患を抱えた脳にも良い働きを持つことが徐々に明らかになってきています。本論文では、中枢関連疾患において DHA が奏功する可能性、およびそのメカニズムについての総説が示されています。
DHAによる脳へのマクロな影響
DHA などのオメガ3脂肪酸は、マクロ的な見地からも脳に良い影響を与えることが徐々に明らかにされてきています。本論文では、オメガ3脂肪酸による認知機能の改善や、脳血流に及ぼす影響が考察されています。
ニューロプロテクチン D1を介したメカニズム
DHA は他のオメガ3脂肪酸と異なり体内で代謝されて様々な有用な誘導体が形成されます。本論文は、DHAの主な酸化誘導体であるニューロプロテクチンD1の、循環器系や中枢神経系における作用、およびシグナルトランスダクションのメカニズムについての総説です。
DHAの血液脳関門通過について
血液脳関門を通過することが可能な必須脂肪酸は限られていますが、それらの脳内での挙動についてはあまり知られていません。本論文では、DHAを摂取した後の、脳内環境を反映する脳脊椎液 (CSF)中の脂肪酸の変化、および脳内と CSF内のDHAとEPAのレベルの差について考察されています。
DHA のグルタミン酸受容体への作用
脳神経細胞が減少する神経細胞死、および記憶に関係すると考えられている長期増強 (LTP)の誘導には、グルタミン酸受容体が重要な働きをしていることが知られています。本論文では、グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体に DHA がどのように作用するかについて、生きている脳の錐体神経細胞を用いた細胞活動の考察がなされています。
DHAがアミロイドβおよびラフトに及ぼす影響
細胞膜には、リン脂質、コレステロールとあわせ膜貫通タンパクやレセプターが豊富な部分が所々浮かんでいて、まるで「いかだ」のようなのでラフトと呼ばれています。ラフトは、様々な細胞内外の情報をやり取りしており、細胞の生存や細胞死にも影響を与えます。本論文では、DHAがアミロイドβタンパクの生成と細胞膜上のラフトの構成にどのような影響を与えるか考察されています。
DHAによる細胞膜流動性と学習障害に対する保護
記銘力が障害される疾患であるアルツハイマー型認知症(AD)。ADが引き起こす学習障害に対して DHAの有用性が示唆されています。本論文では、DHAによる大脳皮質の細胞膜流動性変化が神経細胞防御に寄与していることが示されています。
DHAによるアミロイドβの抑制作用
ADでは、神経細胞内にアミロイドβタンパクが蓄積し、神経細胞障害の引き金を引くことが考えられています。本論文では、DHAがアミロイドβタンパクへ及ぼす影響が示されています。
DHA によるアミロイドβの線維化の抑制
ADでは、アミロイドβタンパクが線維化して不溶化することによる神経毒性が推察されています。本論文では、DHAによるアミロイドβタンパクの線維化抑制が示されています。
DHAによるアミロイドの沈着抑制
ADでは、アミロイドβタンパクが脳内に蓄積され、神経細胞に障害を与えると考えられています。 DHAがアミロイドβタンパクの脳内への沈着を抑制し減衰させることが、報告されています。
EPAがアルツハイマー病に及ぼす影響
DHAは、脳内にもともと多く存在していますが、ADモデル動物にDHAを投与すると認知障害が軽減されることが報告されています。一方、EPAは脳内に少ないので、EPAに関するこの領域での効果を調べた報告は多くありません。本研究では、ADモデルにEPAを投与すると、血液中のDHAが増加し、それによってADによる認知障害が軽減される、と示されています。
加齢にともなう認知機能低下に対する EPAとDHA投与による予防効果
老齢ラットの認知機能低下に対する予防効果につき、オメガ3脂肪酸(プロノバ社 EPA 467mg/g、 DHA 365mg/g)および高純度 EPA(日水製薬)を比較しました。その結果、オメガ3脂肪酸に含まれている DHAが、認知機能の改善と直接関連していることが示されました。
虚血再潅流後の神経保護を示す DHAの代謝物
血栓によって血流が遮断されて、いったん虚血に陥った後に血流が再潅流すると、急激な過酸化が発生し脳梗塞の障害を悪化させます。 DHAあるいはその代謝物が虚血再潅流の過程でどのような役割をしめすか、本論文で検証されています。 DHAの酸化誘導体10,17S-ドコサトリエンが、再灌流後の炎症を抑制し、神経保護に寄与する内因性伝達物質として作用することが示されています。
網膜における神経保護
光を受容する網膜を構成する神経細胞等の細胞膜に高濃度の DHAが含まれていて、視覚機能を正常に維持していると考えられています。神経細胞に栄養を送る網膜上皮という細胞を解析したところ、 DHAの酸化誘導体が見つかりました。この物質は、細胞死を抑え、炎症を進行させるシクロオキシゲナーゼも抑制することがわかりました。本酸化誘導体は同時期に脳内で見つかった神経を保護する伝達物質と同じ構造であり、ニューロプロテクチン D1と名付けられました。
DHAによるニューロンへの分化を誘導するメカニズム
DHAが神経突起を形成し軸索を伸長させるメカニズムが調べられています。
全身性エリテマトーデスとDHA
炎症が関連する全身性エリテマトーデスのモデルで、DHAが生残率を改善するメカニズムが検討されています。
精子の形成とDHA
DHAが正常な精子の形成を促進するメカニズムを、リン脂質型 DHAに関わる酵素の遺伝子を欠損した動物を利用して、示しました。
脳卒中での神経保護
世界の主要な死因のひとつであり後遺症が懸念される脳卒中に対し、オリーブオイルやオメガ 3脂肪酸が含まれている地中海式食事が疫学的に有効であることが示唆されてきました。メカニズムを解明するため一過性の脳卒中モデルマウスを用いてオリーブオイルとオメガ 3脂肪酸の組合せによる脳機能保護の作用が調べられています。
ジカウイルス感染に対する神経保護
蚊が媒介するジカウイルスは妊婦に感染すると胎児の脳神経細胞が障害をきたし小頭症を引き起こします。脳神経を保護する作用を持つDHAが、ジカウイルスの感染による神経毒性を抑制するかが、調べられました。
炎症による疾患とオメガ 3脂肪酸
過剰な炎症反応が様々な障害の原因となることが知られています。肥満や糖尿病でも体内に不要な炎症が起きてきます。DHAや EPAやそれらが体内で変化してできる代謝物が炎症を抑えることによって、炎症による障害を抑える可能性について考察されています。
DHAを含むキャビア抽出物と皮膚の老化抑制について
皮膚への紫外線B波の曝露は、皮膚の老化を引き起こします。細胞試験の結果、キャビア抽出物およびその成分であるDHAは、脂質代謝の促進や抗炎症、コラーゲンの分解抑制などの効果により、紫外線B波による老化を抑制する可能性が示唆されました。
マウスの腸内細菌叢とDHA摂取量について
食事内容は腸内細菌叢に影響を与える可能性が知られています。DHAの配合比率が異なるエサを用いてマウスを飼育し、腸内細菌叢や生理状態を調べたところ、DHA含有量が多いエサを使用した場合、DHA含有量が低いエサに比べ、有害細菌の増加抑制や各種脂質値の上昇抑制、体脂肪率の改善などが顕著に認められました。
ω3欠乏食がスコポラミンによる脳へのダメージに与える影響について
ω3系多価不飽和脂肪酸であるDHAは、脳の機能維持や発達に重要であることが知られています。ω3欠乏食や、スコポラミンにより脳機能を傷害したマウスを用いた実験によると、ω3の欠乏は脳内のDHA量の減少を引き起こし、また、スコポラミンによる脳のダメージを悪化させることが明らかになりました。
DHA/EPAが免疫細胞におよぼす効果とその分子メカニズム
様々な種類の免疫細胞におよぼす効果について、また DHAとEPAの違いについても解説しています。
心血管系、および認知の機能を評価した臨床試験
健常者160名を対象に実施された、心血管系の機能、および認知機能への作用を確認する並行群間比較臨床試験です。DHA 480mgの用量で試みましたが、血圧が低下したほか、認知機能への影響を確認できませんでした。しかし、設定用量が適切でなかった可能性が議論されています。メルボルンで実施。
ソーセージを利用した臨床試験(島根県の中山間地域で実施)
健常高齢者(57 歳以上)111名を対象に、 DHA 1,720mg を配合した魚肉ソーセージを評価しました。模写や指運動など複数の認知機能の指標に、有益な効果を確認できました。島根県 邑智(おおち)郡で実施。
実行機能に効果が見られた臨床試験
65 名の健常者を対象に、DHA 880mgを調査する臨床試験を実施しました。実行機能に効果が認められました。ベルリンで実施。
中低所得層を対象に実施された臨床試験
中・低所得層 36名の軽度認知障害 MCI を対象に、DHA 1.3gの用量を調査しました。複数の認知機能において好ましい効果が確認できました。社会経済学的な有用性も言及されております。クアラルンプルで実施。
エピソード記憶および作業記憶に効果が見られた臨床試験
健常成人 228名を対象に、DHA 1.16gの用量を調査しました。ことばや絵を思い出す認知機能が改善されました。ニュージーランドで実施。
全身の炎症と認知機能の相関を調査した臨床試験
健常者 40名を対象に、DHA 1,050mgの用量を調査しました。エピソード記憶と作業記憶の指標において、改善が確認されました。また、血漿中の炎症マーカーである腫瘍壊死因子(TNFα)と認知機能が負に相関し、炎症を抑制することが認知機能の維持に寄与する有効な可能性が示唆されました。スウェーデンで実施。
心血管疾患を改善するオメガ 3脂肪酸
オメガ 3脂肪酸が心血管疾患に及ぼす効果を検討した複数の臨床試験を、総合して評価しました。米国心臓協会 科学セッションに、掲載されました。
心拍数とDHA
心臓突然死のリスクは心拍数と関係するとされています。オメガ 3脂肪酸が心拍数を低下させることを示す複数の臨床試験を総合的に評価したところ、オメガ 3脂肪酸の中で DHAが心拍数を低下させることが、明らかになりました。
DHAと子供の発達
DHAが周産期の胎児の急成長で脳に蓄積され、脳機能の発達に重要な役割を果たしています。出生前の臍帯血のDHAが、その後、7歳児の運動機能と関係するかを検証しています。
認知機能と血中のオメガ3脂肪酸
ピッツバーグ大学 成人の健康と行動に関するプロジェクトにて、280名を対象に、認知機能と血清リン脂質のオメガ 3脂肪酸の関係が調べられました。 その結果、オメガ3脂肪酸の中で DHAが認知機能とかかわっていることがわかりました。
子供の認知機能とDHA
出生前後の子供の血中DHA と認知機能の関係が調べられています。北極圏ケベック マナヴィックのイヌイットの子供を対象に、脳波についても、調査されました。
腎症を抑制する DHA
炎症が関与する腎炎に及ぼすオメガ 3脂肪酸の効果が、ミネソタ州ロチェスターの多施設で、確認されました。
激しいスポーツにともなう脳損傷と DHA
ボクシングやアメフト競技の衝突による脳震盪や外傷性脳障害のダメージを軽減するための対策が必要とされています。脳組織中の主要なオメガ 3脂肪酸である DHAの脳損傷に対する効果を検証しています。
瞼板線(メイボ―ム腺)疾患と DHA
炎症関連疾患である瞼板線(メイボ―ム腺)疾患を DHAが改善するか、スペイン マドリードで臨床試験が検討されました。
急性呼吸窮迫症候群とオメガ3脂肪酸
新型コロナウイルスは重症化すると、息切れや呼吸困難を起こす急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こすことが知られています。ARDSは、炎症により急速に重篤な低酸素血症におちいる病態です。今回、オメガ 3脂肪酸を含んだ経腸免疫調節食がARDSの臨床上の客観的指標を改善することが複数の臨床試験のメタ解析によって示されました。
DHAと胎児の心拍
乳児の心拍に DHAが好ましい影響を及ぼすことが示されていますが、母体内の胎児の心拍や自律神経に及ぼす母親の DHA補給による影響は明らかでありませんでした。
そこで、心磁図という胎児の心拍を測定する方法を用い、胎児および新生児の心拍や運動行動に及ぼす母親の DHA摂取による効果が調べられました。
血中ω3 高度不飽和脂肪酸(PUFA)濃度と小児の健康について
アテローム性動脈硬化は、生活習慣や遺伝的な要因などに影響を受け、小児期から進行し続けることが知られています。血中の因子について調べたところ、血管内皮の機能維持に関わるとされるビタミンB群とPUFA濃度が相関していることが分かりました。このことは、小児期の段階から適切な食習慣を身につけることが、心血管疾患の予防だけでなく小児期の神経系の発達などへも貢献する可能性を示しています。
肥満または妊娠糖尿が新生児へのDHA供給に与える影響について
新生児の発達にDHAは欠かせませんが、肥満や妊娠糖尿病の妊婦の臍帯血を調べたところ、新生児に十分な量のDHAが供給されていないことが分かりました。このような状態の新生児には、DHAを強化した食事を与える必要があります。
妊娠糖尿病に対するビタミンDとω3脂肪酸の同時摂取の影響について
母子ともに重篤な合併症を引き起こす可能性が示唆されている妊娠糖尿病に対して、ビタミンDやω3の投与による改善が報告されています。今回の研究により、ビタミンDとω3の同時投与は、それぞれの単独投与に比べて、より明確な効果が示されました。
出産前うつ病患者における多価不飽和脂肪酸と炎症マーカーの関連性について
出産前うつ病と、血液中のω3組成および炎症マーカーとの関連を調べたところ、血液中のω3が少ないほど、また、炎症マーカーのレベルが高いほど、うつ症状の発症期間が長いことが分かりました。ω3には、炎症性サイトカインの産生を抑制する効果が知られており、ω3の摂取は出産前うつ病の予防や治療に有効であると考えられます。
世界で増加する DHA/EPA欠乏者のリスクの回避にむけて
DHA/EPAを強化した鶏肉もしくは卵を摂取することによって赤血球膜ω3指数(DHAおよび EPAの脂肪酸比の合計)改善されることを示しています。