マルハニチロ、宇宙へ~宇宙食缶詰の歩み~

©JAXA/NASA

2020年11月に日本人宇宙飛行士の野口聡一さんらが搭乗した、民間宇宙船「クルードラゴン」1号機の打ち上げが大きく報道されるなど、宇宙の商業利用の本格化が大きな注目を集めています。

宇宙空間ではたんぱく質やカルシウムが失われやすいことが知られており、マルハニチロでは1985年から、得意とする栄養成分豊富な魚缶詰で、宇宙飛行士のみなさまのバランスのよい食生活をサポートしています。

国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で撮影された
宇宙日本食の「イワシのトマト煮」

はじまりは宇宙開発事業団(NASDA)による「宇宙食勉強会」

1985年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の前身の一つである宇宙開発事業団(NASDA)による委託業務「米国宇宙基地計画予備設計参加」の下に、宇宙食開発ノウハウ蓄積のため「宇宙食勉強会」が発足し、その参加企業としてマルハニチロ(当時の大洋漁業)が選定されたのがはじまりでした。

この勉強会が幕を閉じた数年後、本当に宇宙食をつくるチャンスが訪れます。1994年の向井千秋さんの宇宙フライトに際して、1993年10月に読売新聞社とNHKが進めた、NASDA広報イベント「向井千秋さんの宇宙料理コンテスト」において選ばれた、宇宙食の優秀作品を当社が実際に形にすることになり、一般からメニューを募集しました。

その後、さまざまな審査を経て1994年5月に13品目の日本食の宇宙食メニューを決定し、NASAの厳正な検査に合格した後、スペースシャトル「コロンビア号」に初めての宇宙日本食として搭載され、1994年7月、「コロンビア号」では日本人女性初の宇宙飛行士、向井千秋さんはじめ4名の宇宙飛行士による初の日本食パーティーが実現しました。

開発当初、形状はレトルトパウチだった

マルハニチロの再挑戦

初めての生産から10年経った2004年10月、当社は再び宇宙食開発に挑戦することになります。(公社)食品科学工学会宇宙日本食専門委員会より、魚料理の宇宙食開発の要請を受けたことがきっかけです。「常温保存で15カ月間品質を保持すること(※)」「おいしい日本食であること」という要件を満たすため、メニュー検討・試作・評価を重ねた結果、「イワシのトマト煮」「サンマの蒲焼」「サバの味噌煮」の3品が、2007年6月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって宇宙日本食として認証されました。

前述の1994年7月の「コロンビア号」に搭載した宇宙日本食は認証されたものではなく検査に合格し特別枠として搭載されたものだった為、この時の宇宙日本食が「初めて認証された宇宙日本食」となったのです。

※現在認証されている宇宙日本食缶詰は、賞味期間18ヵ月

宇宙日本食 採用秘話

各品目の開発継続・採用を検討する、2005年1月に行われたJAXA筑波宇宙センターでの試食会では、当初各社1品ずつ提供することになっていました。試食会にたどり着くまでに当社は10品以上を試作していましたが、当日選考に携わる外国人の味噌への苦手意識を懸念し、「サンマの蒲焼」を試食会に提供する1品として選びました。

しかし、試食会当日、「サンマの蒲焼」以外にも念のため「サバの味噌煮」「イワシのトマト煮」を持参していることを宇宙飛行士の若田光一氏、レディック・ボー氏に話したところ、ぜひ食べさせて欲しいということで急遽、その場で試食していただきました。そこで、レディック・ボー氏が「大変おいしい!」と言って完食したことから、残りの2品についても採用されることが決まったのです。開発担当者の熱意と努力が報われた瞬間でした。

宇宙食と一般製品との違い

宇宙食の魚缶詰は高たんぱく質かつ中骨も食べることができ、またEPA、DHAをはじめとする魚由来の栄養成分を豊富に含んでいるため、宇宙でのバランスのよい食生活をサポートすることができます。

宇宙食は以下のような特長で宇宙空間に最適化した形で製造されています。

  1. 無重力空間で液汁が飛び散らないように、粘り気を持たせた調味液(たれ)。
  2. 魚くささを少なくするために工夫した、企業秘密の製造工程。
  3. 宇宙では味覚が鈍ると言われているため、濃い目の味付けに調整。
  4. 無重力空間で食べやすいように、魚を一口大にカット。

カットサイズ、肉詰め、調味料充填などについても、市販品とは異なる工程で生産される製品であるため、生産ラインに落とし込む作業が大変だったと言います。

当社は今後も宇宙食開発を通じて、栄養価やおいしさをそのまま缶に詰めることができる缶詰の魅力を発信してまいります。

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