日本のおいしい魚を巡る
お魚ツーリズム02

夏の自由研究気分で
訪ねたい
郷土料理の宝庫・愛媛県

2024.8.1

日本を旅する楽しみの一つが、その土地でしか出合えない魚料理であることは間違いありません。知名度が低く流通にのりにくい魚は、新鮮なまま地元でおいしく消費されています。
日本各地を巡り魚食文化を調査する「日本さかな検定協会」代表理事の尾山雅一さんが、
忘れられないローカルな魚料理をご紹介。知られざる魚食文化を体験する旅へいざないます。

尾山雅一(おやま・まさかず)さん

日本さかな検定協会 代表理事。山口県宇部市出身。早稲田大学日本文学科卒後、広告会社に入社。2009年に日本さかな検定協会を社内起業。出題・解説や副読本のコンテンツ執筆のため全国各地の漁港や居酒屋を行脚し取材。魚食文化の発信をライフワークとする。

地方ごとの魚や郷土料理がある
日本の豊かさを再発見

日本では約400種もの魚介が食べられています。大都市圏に流通するのはメジャーな魚がほとんどですが、地方では地魚も食べられていて、水族館かと思うほどたくさんの地魚が並ぶ鮮魚店もあるんですよ。

魚市場でも標準和名ではなく地域ごとの名前が使われています。例えば「カサゴ」は四国では「ホゴ」「ガシラ」、九州では「アラカブ」「ガラカブ」、瀬戸内では「メバル」、三浦半島では「ツラアラワズ(面洗わず)」。地方ごとに馴染んだ魚の名前があるのは、そもそも漁業が“生業(なりわい)”だった日本ならではの豊かさだと思いませんか?

郷土料理も、元は冷蔵技術がなかった時代の保存食。それが、なぜいまだに残っているのか。郷土料理には先人の工夫が詰まった“滋味深さ”があるからですよ。

どこでも同じものが食べられる現代ですが、地元に行かないと味わえない魚や郷土料理はまだまだあります。最近は地方を訪れる外国人旅行者も増えていますが、やはりこれからは地域ごとの魚や郷土料理を見直して、地元の誇りにしてほしいですね。

愛媛県・南予地方は
郷土料理のバリエーション
日本一!?

そんなローカル魚食の豊かさを最も味わえる旅先が愛媛県。特に南西部の南予(なんよ)地方は、私が思うに、日本一郷土料理が残っているエリアなんです。
愛媛といえば瀬戸内海のイメージですよね。確かに北側はそうなんですが、ほら、地図を見てください。宇和島市あたりは海の向こうはもう大分県なので、九州文化の影響も大きい。そこに東北の文化も混ざっています。

四国の西側に広がる宇和海。愛媛県と大分県の間にある海域で、鯛の養殖も盛ん。

なんで東北?と思いますよね。宇和島藩の初代藩主は伊達秀宗だったんですよ。そう、あの仙台藩主・伊達政宗の長男です。実は宇和島名物の「じゃこ天」は、伊達秀宗が仙台かまぼこの職人を呼んで、近海の小魚=じゃこで作らせたのがはじまり。西日本ではすり身を揚げたものを「天ぷら」というので「じゃこ天」なんですね。こんなふうに名物や郷土料理は、地理や気候に加え歴史の影響も大きいんです。

酒の肴にも、おかずにも、揚げたてを売る店でおやつにもなる宇和島名物「じゃこ天」。

一度食べれば病みつきに!
真鯛王国ならではの
独自の鯛めし

愛媛県は養殖魚類の生産量日本一! 養殖真鯛の生産量も長年日本一を誇ります。そんな愛媛を代表する郷土料理が、2つの「鯛めし」です。

東予・中予(とうよ・ちゅうよ)地方の「鯛めし」は、一般的な鯛の炊き込みごはん。独特なのが南予地方の「宇和島鯛めし」です。鯛の刺身を生卵やごまを加えた醤油だれと混ぜて熱いごはんにかけるもので、地元では「ひゅうが」とも呼ばれます。

鯛の姿造りに生卵入りの醤油だれを添えた宇和島の鯛めし。

そのルーツは宇和海の日振島(ひぶりしま)を拠点とした伊予水軍が船上で火を使わずに作った海賊料理だとか、宇和島市南の津島町に伝わる郷土料理が元祖だとか諸説あります。ともかく、一度味わえばハマりますよ! 卵かけごはんに鯛のうまみが加わったようなおいしさで、大分の「りゅうきゅう」や博多の「ごまさば」と並ぶ“日本三大漬け魚”だと思っています。

ユニークな魚の郷土料理を
お国言葉とともに味わおう

宇和島では、尾頭付きの鯛をゆでた素麺と大皿に盛る「鯛そうめん」や、糸こんにゃくにエソの紅白そぼろとネギ、みかんの皮のみじん切りを盛り付けた「ふくめん」もハレの日の料理としておなじみ。ほかにも、三枚に下ろした太刀魚を竹に巻き付けて焼いた「太刀魚巻き」など、ユニークな郷土料理の宝庫です。

宇和島のハレの日の食卓。奥が「ふくめん」、手前が「鯛そうめん」。

そんな郷土料理を食べられるお店が多いのも宇和島のポイント。旅で何がいちばん贅沢かって、地魚で地酒を楽しむことでしょう? 私のイチオシは「ほづみ亭」です。ジューシーな揚げたてじゃこ天を楽しむなら、宇和島港の道の駅「きさいや広場」もおすすめ。

「きさいや」とは“いらっしゃい”という意味の方言です。そんなお国言葉を聞きながら地魚や郷土料理を味わえば、おいしさもひとしおですよ。

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