入社1年目

10.5

主担当として、初めて
お客様に提案することに。

「よし、主担当としてやってみるか」。入社から約半年後。先輩の商談の同行や店舗陳列の手伝いをしながら、営業の基礎を学んできた一人の新人社員が、先輩からの一言で初めて主担当としてお客様を持つことになった。お客様は、ここ数年、成長を続ける地域密着型スーパー。1年目の社員が担当するには比較的規模の大きなスーパーで、かつ、マルハニチロとしても関係性をより強化したいお客様だった。その新入社員は一抹の不安を抱えたまま、ひとまず前任者の提案内容を参考にしながら、定例の商談に向けて企画の内容を決めていった。提案するものは、おおよそ2ヶ月先の店頭に並べたいもの。この時は、缶詰シリーズの中でも厳選された原料を使用して製造された「月花シリーズ」の中からサバやイワシの缶詰を中心に据えた。

10.20

ダメ出しに答えながら、
企画書をまとめていく。

企画書には市場でどのくらい売れているかといったデータを盛り込んでいく。こうした各種データは社内に整理されており、営業は自分のPCから必要な数字をいつでも引き出すことができる。その新入社員もデータを用いながら、企画書がある程度の形になったところで、隣の先輩にチェックを依頼。すると、「ダメだと思うけど、一度、もまれてこい」というまったく心もとないフィードバックが返ってきた。その後、彼は他の先輩にも付き合ってもらい、模擬プレゼンをくり返すものの、15分間の制限時間内に収めることができない。説明する順番を変えてみたり、周囲の先輩たちからの愛あるダメ出しに応えたりしていきながら、なんとか企画書をまとめていった。

11.15

いよいよプレゼン当日。
赤の勝負パンツで挑む。

初めてのプレゼン当日。小さい頃からサッカーを続けていた彼は、大切な試合の日は必ず赤いパンツを履くようにしていた。もちろん、この日も赤の勝負パンツ。夕方の商談が近づくにつれ、彼の緊張の度合いも増していく。その頃、決戦の舞台となるスーパーの本社では、朝から30社ほどの食品メーカーの営業たちが代わる代わる自社の商品を売り込んでいた。マルハニチロの順番は終盤。担当者の疲れもピークに達する頃だ。本社の商談ブースに通された彼は、「よろしくお願いします!」と元気よく挨拶をした。しかし、反応は薄い。その後、15分間の持ち時間をフルに使い、企画書を読み上げた。担当者の視線は終始、ノートパソコンの画面から動くことはなかった。

11.30

撃沈。自分の目で、
店舗を見て回ることから。

このスーパーでは通常、提案内容が気に入ってもらえたら、発注という形で連絡が入る。しかし、1週間経っても、2週間経っても発注書が届かない。撃沈。プレゼン前に企画書をチェックしてもらった先輩社員からは「言いたいことを一方的に書いているだけ。これを読み上げても商談にはならない」と厳しい指摘を受けた。さらに、「そもそも、店舗には何回行ったの?今月のチラシのオススメ商品は?」と矢継ぎ早に質問される。「…わかりません」。新入社員は力なく答えた。悔しい。そこから、彼の売り場通いの毎日が始まった。このお客様の商品棚の端には何が置いてあるのか。どんなお客様が、どんなPOPを読んで、どんな商品を買っているのか。机上で確認するデータとは異なる、リアルなお客様の動きが徐々に見えてきた。

1.25

他のお客様先も見て回り、
手応えをつかむ。

同時に、彼はその他のお客様のスーパーも数多く見て回った。すると「この陳列は面白い」「この店頭広告はお客様の目を引きそうだ」など、提案の参考になりそうなアイデアも仕入れることができた。企画書も、この数ヶ月で見違えるほどの精度になっていった。そして、前回のお客様へのリベンジの機会が再び回ってきた。「今度は、イワシの蒲焼き缶で勝負しよう」と彼は決める。これも、お客様先の現場を見て決めたことだ。味噌煮や煮つけは充実しているものの、お客様先の商品棚に蒲焼きがそろっていないことに着目したのだ。事前のプレゼンの練習も、今度はより相手の反応を意識しながら、ストーリーを組み立てていった。商談の日が近づくと、先輩たちも毎晩、遅くまで練習に付き合ってくれた。

2.5

リベンジに挑戦。
担当者と初めて目が合った。

2回目のプレゼン当日。この日もスーツの下は、赤パンツ。商談の少し前に上司から「行ってこい」と背中を押されて、彼は会社を出た。鞄の中にはギリギリまで見直し続けていた企画書。今回は単なるデータの羅列ではない。その数字の一つひとつがお客様の現場とどう関係しているのかを説明できるまで磨き上げた。お客様の本社に到着すると、前回と同じ商談ブースに通された。前回と同じく担当者はパソコンの画面を見つめている。しかし、今回は提案の最中に何度か顔が上がり、担当者と初めて目が合った。15分の商談時間が終わった後の充実感が、前とは比べものにならないくらい大きかった。

2.20

発注の連絡が届く。
小さく大きな20ケース。

そして、約2週間後。問屋さんからイワシの蒲焼き缶の発注書が届いた。提案内容が響いたのだ。新入社員は思わず「よっしゃー」と小さくガッツポーズした。上司たちも「よくやったな」と褒めてくれた。うれしかった。発注数は20ケース。現在の取引数の200ケースに比べれば、約10分の1程度だが、彼にとっては小さくも大きな20ケースとなった。それから2ヶ月後、提案したイワシの蒲焼き缶が店頭に並んでいる様子を確認に行った。価格も提案した通りの内容だ。提案の意図がきちんと伝わっている。彼は複数店舗を回り、自分が納品した商品を確認して回った。その日の会社への帰り道は、笑みが絶えなかった。

入社2年目

5.15

毎月商談をして、
陳列の相談も受けるように。

この商談をきっかけに、お客様との関係性にも徐々に変化が現れ始めた。たとえば、お客様先に商品を納入している食品メーカーが集う懇親会にも呼ばれるようになった。ここでは担当者との距離が縮まるだけでなく、メーカー同士で情報交換をし、コラボレーションした企画が生まれることもあるのだ。さらに、店舗の陳列にも呼ばれるようになった。担当者と一緒に商品棚を眺めると、担当者の気持ちもこれまで以上にわかるようになった。商談では正面で向き合う一方、陳列では同じ方向を見るからだ。この違いは大きい。さらに、商談の回数も、これまでの約2〜3ヶ月に1回から、1ヶ月に1回へと回数が増えた。「毎月提案できるのは大きいですね。1年間の計画を立てられるようになりました」と彼は当時の様子を振り返る。

入社3年目

11.20

信頼関係を深めながら、
もっと大きな仕事を。

一方通行の提案をして、担当者から目も合わせてもらえなかった新入社員も、気づけば3年目。社内でも次期エース候補と呼ばれるまでに成長していた。主担当として持っているお客様の数も増え、それぞれの担当者たちからの信頼も厚いものになっていた。ただし、ここぞというときの商談で赤いパンツをはく習慣は変わらない。そんな彼にマルハニチロの営業の醍醐味と今後の目標を尋ねると、「1年目から先輩たちのフォローのもと、お客様を任せてもらえるのは成長につながります。また、担当者だけでなく、問屋さんや他メーカーとここまでコミュニケーションをとる仕事だとは思っていませんでした。よりすべての信頼関係を深めることで、大きな仕事ができるのは面白いですね。今後は、商品開発にも携わり、社内のことももっと知ったうえで、再び営業の現場に戻ってきたい」と語ってくれた。