MARUHA NICHIRO

GL
社長インタビュー
#2

「我々は、常にソリューションカンパニーだった」

歴史を力に、未来へ挑む

代表取締役社長・池見賢インタビュー
10年後、50年後、世界の食卓はどんな景色になっているのでしょうか。
気候変動、資源の枯渇、超高齢化社会。かつてないほど複雑で、地球規模の課題に直面する今、食の未来をどう描くかは、人類に突きつけられた問いです。そして、その問いに正面から向き合い、具体的な「解」を提示していく。それが、私たちマルハニチロが「Umios」の名を掲げることにした理由です。
この名には、食を通じて地球規模の課題を解決するソリューションカンパニーへと進化していく、私たちの強い決意が込められています。海を起点に社会や地球と一体となり、未来への“解”を提示していく。その変革の主体は、いつだって〈人〉です。だからこそ私は今、焦らず、しかし着実に、社員一人ひとりの心に火を灯す「きっかけ」をつくることに全力を注いでいます。

インタビュー日:2025年10月7日

我々の歴史は「ソリューション」の連続だった

そもそも今回のソリューションカンパニーへの変革を、全く新しいチャレンジのように捉える方もいるかもしれません。そうではありません。歴史を振り返れば、私たちは常に時代の課題に応え続ける「ソリューションカンパニー」でした。
戦時中、私たちが所有していた漁船は、軍需輸送のために軍部から徴用されていました。しかし終戦直後、わずか1週間で造船の決議をしている。あの時の最大の課題は「飢え」でした。とにかく国民が生きていくための食糧を確保しなければいけない。それを解決するために、我々はすぐに船を造り、海に出たのです。
また、1970年代に「200海里問題」(※)が浮上した際は、事業の根幹が揺らぎました。それまで自由に操業できていた世界の海から、日本の漁船が締め出されるという事態に直面したのです。主戦場だった遠洋漁業は大幅な縮小を余儀なくされましたが、私たちはそこで立ち止まらず、海外からの水産物輸入や、冷凍食品などの加工事業へと大きく舵を切りました。

(※ 国連海洋法条約に基づき、沿岸国が自国の岸から200海里(約370km)までの海域で、漁業や資源に関する主権的権利を持つ「排他的経済水域」を設定する動きが世界的に広がった問題。これにより、これまで世界の公海を主な漁場としてきた日本の遠洋漁業は、多くの漁場へのアクセスを失い、大打撃を受けた)

寄せては返す波のように現れる時代の宿命に対し、私たちは常に変化することで乗り越えてきました。そして今、気候変動や資源リスク、人々の健康意識の高まりといった、これまでとは次元の異なる、より複雑でグローバルな課題が私たちの目の前に広がっています。

だからこそ、私たちは変革しなければならないのです。しかしそれは過去との断絶ではなく、私たちのDNAに刻まれたソリューションの精神を、現代、そして未来の地球規模の課題へと接続させることに他なりません。そしてそれは、この会社が未来を生き抜くための、必然的な進化なのです。

課題は、チャンスだ。未来の食卓への「解」

今、私たちの目の前には、二つの大きな社会課題があります。
一つは、気候変動や海洋汚染による、天然資源の枯渇。もう一つは、超高齢社会における、健康寿命の延伸です。これらは一見すると事業上のリスクですが、私はこれを明確なチャンスだと捉えています。なぜなら、私たちには課題に対する「解」があるからです。
天然資源が有限だからこそ、私たちは持続可能なタンパク質供給の新たな形を創造しています。気候変動による高水温にも対応できる新魚種「スギ」の養殖を本格化させ 、近年不漁が続くサンマの事業化レベルでの試験養殖にも成功しました。さらにその先を見据え、スタートアップ企業と連携し、海の環境に左右されない細胞性水産物の研究開発も進めています。これは、魚から取り出した細胞を培養することで水産物そのものをつくり出す最先端の技術で、海の資源量に依存しない、全く新しいタンパク質供給の可能性を拓くものです。

人生100年時代と言われる一方で、健康寿命の延伸は社会全体の大きなテーマです。私たちは、心血管疾患のリスク低減という表示で、日本で初めて許可された特定保健用食品「リサーラソーセージω(オメガ)」のように、日々の食生活の中で“未病”に貢献するソリューションを提案しています。また、在宅介護のニーズが高まる中、摂食嚥下が困難な方でもおいしく栄養が摂れるムース食など、多様なライフステージに寄り添うことで、誰もが健やかに暮らせる社会の実現を目指しています。

そして何より、すべての生命の源であり事業基盤である海の豊かさを未来へ繋ぐことは、私たちの絶対的な責務。海の恵みなくして、私たちの生活や事業は成り立ちません。その責任を果たすため、私たちは行動で示します。

例えば、魚たちの“ゆりかご”とも呼ばれるアマモ場の再生活動には2014年から取り組み、社員自らが海に入って種を蒔き、豊かな生態系を育む活動を続けています。また、海洋プラスチック汚染という世界的な課題に対しては、同業他社とも協力し、社長である私自身も参加して海岸のクリーンアップ活動を毎年実施しています。
グローバルな視点では、世界の主要水産企業と科学者が連携するイニシアチブ「SeaBOS (Seafood Business for Ocean Stewardship)」の設立に立ち上げから参画し、初代会長を務めるなど、違法漁業の撲滅や強制労働といった課題解決に向けて、業界全体の変革をリードする役割を担っています。海の恵みを受けて事業を営む私たちにとって、これは果たすべき社会的責務であると同時に、事業の持続可能性そのものを支える根幹をなす活動なのです。

変革の主語は「わたし」。小さな成功の共有から、未来は始まる

マルハとニチロが統合して以来、私たちは互いの“強いところ”を伸ばす戦略で成長してきました。それは確かに一定の成果を上げましたが、一方で組織の縦割りを生み、人材の流動性を妨げる要因ともなっていたように思います。
これからのUmiosに必要なのは、個々の強みを単純に足し合わせる「足し算」の文化ではありません。人と知見と資産を掛け合わせ、新たな価値を生み出す「掛け算」の文化です。そのために不可欠なのが共創の精神です。
社員に伝えたいことは、今までの当たり前を、一度見直してほしいということ。まずは社内の横の繋がりを密にし、会社の資産を最大限に活用してください。小さな幸せや成功体験を、自分のチームの中だけでなく、部署を越えて共有してみてください。何気ない対話の積み重ねが、やがて信頼を生み、共創の土壌となり、会社を成長させていくのだと信じています。
さらに、高輪ゲートウェイシティへの本社移転を機に、スタートアップや大学など、外部の知恵も積極的に取り入れ、イノベーションのスピードを上げていきます。あらゆる壁を取り払い繋がることで、私たちの持つ多様な力を、お客様や社会が抱える課題へと直接結びつけることになるはずです。
変革の主語は、いつだって「わたし」です。だからこそ私は、社員一人ひとりに「主役は、あなただ」と伝えたい。この壮大な航海の羅針盤は、皆さんの手の中にあります。世界は、Umiosが海からどんな「解」を導き出すのかを見ています。さあ、未来への航海をはじめましょう。