医療用素材(検討中の素材)

天然型DNA

医療用素材の開発の背景

マルハニチロではサケ缶をはじめとして様々な形態にサケを加工し、皆様に提供して参りました。その歴史は100年にも及びますが、加工工程の副産物である内臓や皮の大部分は未利用のまま処分されています。このような「未利用資源」の一つ「白子(精巣)」について、マルハニチロの中央研究所では、約30年近く前から活用検討を行い、プロタミンDNAといった素材を開発、食品用・医薬品用原料として提供して参りました。特にDNAは食品用と別に、より生体内の状態に近い形(高分子状態)で抽出する技術を持ち、その特性を活かして医療・歯科用材料としての検討を進めています。

サケの恵みを余すことなく活用したいという思いから始まった「未利用資源を原料とした素材開発」。その応用展開の一例である、「医療用素材の開発」についてご紹介致します。

DNA/プロタミン、DNA/キトサン複合体

DNAについて

マルハニチロのDNAは、天然のサケ精巣(白子)を原料として当社独自の方法により分離・精製した生体高分子です。夾雑タンパクが極めて少なく、二重らせん構造を保持していることを特徴としています。

*分子量1,000万以上の高分子量のDNAも用意できます。

本来、DNAは水溶性ですが、カチオン性物質と静電的に結合することで、水に不溶化します。キトサン(カニ殻由来)、およびプロタミン(サケ白子由来の塩基性タンパク質)との複合体は、生体親和性に優れており、フィルムや多孔体など様々な形状に成型できます。この特長を活かし、DNA/プロタミン、DNA/キトサン複合体の医歯科材料としての応用を進めています。

図 DNA/プロタミン複合体

DNA/プロタミン複合体

DNA/プロタミン複合体は、(1)賦形性に優れ多孔体や複雑な形状に成型できる、(2)抗菌性を有する、(3)皮下組織での炎症反応が軽微で生体親和性に優れる、といった特長があり、特に賦形性に優れていて自由な形に成型できる点が特長的です。

(1) 賦形性に優れ、多孔体やフィルムに成型できます。ペースト化することでシリンジでの押し出し成型が可能なため、複雑な形状の部位にも注入、成型できます。

(2)プロタミンに抗菌性があるため、一般細菌、大腸菌、歯周病菌などに対し抗菌作用あるいは静菌作用を示します。

(3)DNA/プロタミンディスクをラット皮下に埋入したところ、皮下組織での炎症反応は軽微で、細胞毒性も殆どありませんでした。DNA/プロタミンは生体吸収性の生体材料として有望であると思われます。

急性炎症期。断片化したディスクの周囲に炎症性水腫および好中球浸潤がみられる。
異物肉芽腫期。埋入部は肉芽組織で置換され、異物巨細胞によるディスクの貪食がみられる。
器質化期。ディスクは消失し、埋入部は線維を多く含む肉芽組織となる。

DNA/キトサン複合体

DNA/プロタミン複合体と同様に賦形性に優れていますが、物性や生分解性、移植した際の生体反応などで性質は異なります。
DNAの二重螺旋構造へのインターカレーションやリン酸基への静電結合により、薬剤やサイトカイン(骨形成因子(BMP)や成長因子(EGF)など)を試料に取り込ませることができます。

ダウナマイシン(抗がん剤)のインターカレート
DNA/キトサンディスク

骨補填材(骨の欠けた部分を埋める素材)としての応用

DNA/プロタミン複合体およびDNA/キトサン複合体にアパタイトを混合すると、アパタイトに賦形性を持たせることができます。
骨補填材として利用されているハイドロキシアパタイトやβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)は賦形性を持たないため、焼結体とするか顆粒状で使われるのが一般的ですが、本素材のように賦形性を持たせることで、複雑な形状の骨欠損部への適用や、インジェクションタイプでの応用が期待されます。

DNA/プロタミン/炭酸アパタイト複合体のラット頭蓋骨欠損部への埋入。
埋入1ヵ月後のラット頭蓋骨のX線CT画像。欠損部に不透画像が観察され、骨様組織の形成が示唆された。
トルイジンブルー染色した組織標本。新生骨膜の下に石灰化した組織が観察され、骨様組織の形成が進行していることが確認された。

※以上の研究成果は、『第56回日本歯科理工学会研究奨励賞』(発表者:福岡歯科大学・森南奈先生)を受賞しました。

主な研究論文

  • Mori N et al., Cell viability and tissue response of high molecule weight DNA/protamine complex, Journal of Oral Tissue Engineering, 8: 188-194, 2011
  • Fukushima T et al., Polycation protamine for water-insoluble complex formation with DNA, Dental Materials Journal, 29: 529-535, 2010
  • 御手洗 誠 他, プロタミン/DNA複合体の生体材料としての可能性, アミノ酸研究, 4: 83-86, 2010
  • Kawaguchi M et al., Bone response of DNA-chitosan-apatite complexe, Journal of Oral Tissue Engineering, 7: 89-98, 2009
  • Fukushima T et al., Mold fabrication and biological assessment of porous DNA-chitosan complexes, Journal of Biomedical Materials Research Part B Appl. Biomater., 91B: 746-754, 2009
  • Fukushima T et al., Complexation of DNA with cationic polyamino acid for biomaterial purposes, Journal of Oral Tissue Engineering, 6: 24-32, 2008
  • Fukushima T et al., Drug binding and releasing characteristics of DNA/lipid /PLGA film,  Dental Materials Journal, 26: 854-860, 2007
  • J.J.J.P. Van den Beucken et al., Functionalization of multilayered DNA-coating with bone morphogenetic protein 2, Journal of Controlled Release, 113: 63-72, 2006
  • Fukushima T et al., Buffer solution can control the porosity of DNA-chitosan complexes, Journal of Biomedical Materials Research Part B Appl. Biomater., 76B: 121-139, 2006
  • Inoue Y et al., Antifungal activity of DNA-lipid complexes and DNA-lipid films against candida species, Journal of Biomedical Materials Research Part A, 76A: 126-132, 2006
  • Kawaguchi M et al., Preparation of carbon nanotube-alginate nanocomposite gel for tissue engineering, Dental Materials Journal, 25: 719-725, 2006

主な出願特許

  • 特許第4801193号「骨形成用の医療用または歯科用材料」(DNA/プロタミン複合体)
  • 特許第4801193号「骨形成用の医療用または歯科用材料」
  • 特許第4718416号「DNAとポリカチオンの複合体からのフィルムの製造方法」
  • 特許第4354445号「DNA/キトサン複合体の成形方法」
  • 特許第4143070号「新規酵素、その製造法及びそれを用いた分子量調整二本鎖DNAの製造法」
  • 特許第4674288号「歯科用材料」(DNA/キトサン複合体)

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