SALMON MUSEUM サーモンミュージアム

忠類川でサケ釣りをする標津サーモン科学館の学芸員:市村政樹氏。
We Love SalmonFishing!!
回帰したサケはなぜ釣れる??Vo.1
サケたちはエサを食べている!!
産卵のため、帰ってきたサケたちはエサを食べないといわれている。そもそも、沿岸まで回帰したサケたちは、産卵に備え、十分に栄養を蓄えているため、エサを捕食する必要は無いのだ。
では、回帰したサケたちはなぜ釣れるか?
結論から先に述べると、成熟までにまだ間がある個体は“捕食”の要素が強く、完全に成熟している個体は、“威嚇”の要素が強いと私は考えている。

シロザケやカラフトマスは成熟に伴って、消化器官は著しく小さくなり、エサを捕食しなくなる。ところが、私はこれまで、回帰したサケたちの中でエサを食べている個体をかなり確認している。人工授精に使用する完全に成熟したシロザケですら、胃の中から小魚を見つけたことが2回もある。

今回は、これまで私が観察した「エサを食べているサケたち」をについて紹介したい。

本題に入る前に、まず、サケの仲間について整理をしたい。

世界にサケ科の魚は66種いるといわれているが、その中で一度成熟すると死んでしまう種は、シロザケ(サケ)、カラフトマス、ベニザケ、ギンザケ、マスノスケ及び海降型のサクラマスの6種である。そのため、この6種以外は、成熟後も生き続け、翌年以降も産卵することが出来るのだ。日本人にとって「サケは卵を産むと死んでしまう」というイメージが強いためか、サケの仲間は全部同じように死んでしまうと思っている人が多い。サケの仲間といっても、この成熟後に死亡する6種と他の種を分けて考える必要があるのだ。もっとも、共通することもあり、たとえば、成熟すると生殖腺が大きくなるため、消化器官を圧迫するなどの影響があり、捕食量は少なくなる傾向がある。
沿岸で漁獲されたカラフトマスの胃内容物。カタクチイワシと思われる小魚を3匹捕食していた。
上は生殖腺(白子) (撮影:2000年8月23日)
沿岸で漁獲されるシロザケ、カラフトマスを調べると胃内容物が見つかる場合が少なからずある。特に産卵まで1ヶ月以上あるカラフトマスには、その傾向が強い。
写真は、標津沿岸で漁獲された成熟まで1ヶ月ほどのカラフトマスだ。この時は、10個体中4個体のカラフトマスからも胃内容物が見つかった。ただ、別の年に同じような個体で調べたことが何度もあるが、まったく見つからないということもある。胃内容物が見つからないのは、単に捕食できるエサが少ないということも考えられる。
また、忠類川で釣られたカラフトマスの胃の中から「紅染めイカ」が入っているのも何度か見つけたことがある。忠類川でエサ釣りを行う人は「紅染めイカ」を使う人が多いので、当然といえば当然だが・・・。エサ釣りの人に聞くと赤く染めないイカは、ほとんど釣れないそうだ。
忠類川でのエサ釣りの仕掛けにタコベイト(タコのような形のビニール製の疑似餌のこと)を付ける人が多い。シロザケにはサンマの切り身、カラフトマスには紅染めイカが有効とのこと。
シロザケは、沿岸、河川ともにカラフトマスと比べ、胃内容物が見つかることは極めて少ない。
サーモン科学館の大水槽(海水の水槽)では、通年、毎年7月から、標津沿岸で漁獲されるシロザケ、カラフトマスを展示している。両種の他には、ニジマス、イトウ、アメマスなども展示しているため、オキアミやカタクチイワシなどをエサとして与えている。
このエサを普通、サケたちは無視しており、エサの捕食を全く確認できない年が多いのだが、カラフトマスの場合、年によっては、ニジマスやイトウにまじり、先を争ってエサを捕食することがある(写真参照)。
大水槽にはカラフトマスの他、イトウ、ニジマス、アメマスなどがいる。 写真はオキアミ(エサ)を投入した瞬間。
一斉にエサを捕食する。このときは水槽にいるカラフトマス20尾の内、半数近くが餌付いていた。
(撮影:2001年7月29日)
また、この水槽でシロザケが捕食する場面を見ることはカラフトマスと比べると圧倒的に少ない。ところが、サンマの切り身をエサとして投入した際、これまで全くエサを無視していたシロザケがサンマの切り身に猛然と襲い掛かったこともある。何故だが分からないが、シロザケはサンマの切り身が好きなようだ。

サーモン科学館で飼育しているキングサーモンやベニザケは、完全に成熟しているにも関わらず、エサを捕食する個体もいる。水槽で飼育し成熟した個体は、水槽が小さいこともあり、天然のものと比べるとサイズはかなり小さい。キングサーモンのオスにいたっては体長20cmほどで成熟するものもいる。飼育している個体の中には、成熟後に斃死せず、複数年にわたって成熟する個体すらいる。
小型の個体は、代謝が活発なためなのかもしれない。これは、魚種に関わらず全てに当てはまる可能性もある。

以上、回帰したサケたちの捕食例について書いたが、胃内容物はあるものの、消化吸収能力が正常に機能しているかは分からないことを付け加えさせていただく。
したがって、魚種による違いもあるだろうが、産卵までまだ間があるものほど、また、体長が小さいほどエサを捕食する可能性が高いのではないかと考えられる。

次回は、産卵行動に伴う威嚇行動について紹介したい。
オキアミを捕食するカラフトマス(メス)の連続写真。
このカラフトマスか少なくとも10匹以上のオキアミを捕食した。(撮影:2001年7月29日)
市村政樹氏プロフィール
Ichimura Masaki
サケ科魚類展示数で国内随一を誇る標津サーモン科学館の学芸員。サケ科魚類の研究や子どもたちへの教育に活躍。1967年生まれ。東京水産大学卒(現 東京海洋大学)。執筆:北海道新聞 ネーチャー通信(金曜日生活欄)、つり人社「ノースアングラーズ」 北の渓魚大全 、つり人社「ノースアングラーズ」標津便りなど
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